東京の電車の沿線には、たいてい、映画館や劇場が多かれ少なかれあるのに、わが東横線にこれといった劇場がなかったのはふしぎなこと。
では、東横線沿線には、演劇を愛する未来のヒーロー、ヒロインはいないのだろうか。
いま、学芸大学にスポットを当ててみると、芝居が好きで、この街が好きな一人の青年が、輝いて見えてくる。
「大学時代の最初の頃は、役者になるなんて思ってもみなかった。だけど、今は、どんな劇団を作るのか、どんな灯りをともそうか、やりたい演劇に飛びこみたい」と熱く話すその瞳の奥に今までの苦労が察せられる。
三田弘明さん。劇団「街の灯」の第一線で活躍中の彼は、朝日新聞学芸大学北部専売所で新聞配達をする一方で、7月の第2回公演「その日イカロスは空を飛んだという」に向かって、団員の皆さんと猛練習を重ねている。
芝居を始めたきっかけは、宇野重吉、米倉斎加年らが所属する劇団民芸の人との出逢いから。米倉斎加年の演技に魅せられ、その場で「役者になりたい」と思ってからというもの、彼は演劇という名の人生のレールに確実に乗っかってしまったのだ。
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「劇団を通じてさまざまな人に出会い、心のふれあいを感じたいですね」
という三田さんは、学芸大学という街をこよなく愛する根っからの「えんせん族」。
9月からは、その名も「東横線日曜小劇場」を学芸大学駅前でスタート。まさに「沿線演劇」に燃えている。
チャップリンの映画にある人の心の中の「街の灯」の暖かさ。みんなでわかちあえば、きっとまた一つの「出逢い」が生まれるにちがいない。
「街の灯」が、「東横線日曜小劇場」が、みんなに親しまれ、そこから一つの文化が生まれる――なんと素敵なことではないか。
大きな目標をめざして、がんばれ、「街の灯」、がんばれ、三田弘明さん。
[りれきしょ]
昭和31年群馬県富岡市の生まれ、26歳。
明治学院大学中退後、文学座養成所を経て、劇団「街の灯」主宰。好きな俳優はウォーレン・ピーテイ。演劇を離れての趣味は、もっぱら食べ歩き。おひつじ座、A型。
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