編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.464 2015.02.12  掲載

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 えんせん族
 
  平田オリザくん(19)


   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和57年3月月1日発行本誌No.10  号名「桃」
  

   文:岩田忠利     写真/三戸田英文

世界26カ国を    ペダルを踏んで

 16歳単身、503日で
『自転車世界一周旅行』達成


  平田オリザくん

             (東京都目黒区駒場1丁目)

 16歳のときだった。ただひたすらペダルを踏むこと2万キロ、503日間に訪れた国は26カ国……。

 一見きゃしゃにみえるこの若者の、どこにそんな情熱とエネルギーが潜んでいるのか、と思えるほど編集室に現れたオリザ君は、色白で小柄。静かに、控えめに話しだす。

  片仮名の“オリザ”は本名である。彼が目黒・駒場て誕生した時、ラテン語で“稲”を意味するoryzaにちなみ、「食いっぱぐれのないように」と父親が名づけた。

  学校の休みにはいつもサイクリングに出かけた。それがついに世界一周の夢に発展……。
  両親にその計画を打ち明けても、
「全然信じなかった。そのうちに気が変わるだろう、と思って」。
 しかし中学校を出た彼は、昼間働いて旅行資金をためるため定時制高校を選んだ。働き口はまず、ラーメン屋、つぎにパン屋のバイト。もっと条件がよく、脚力のトレーニングにもなる仕事は新聞販売店だった。一人暮らしに慣れるようにと駒場の親元を離れ、大岡山の新聞販売店に住み込み。配達と集金、歩合のいい新聞拡張員までやった。

 とうとう、資金82万円をふところに、オリザ君は生まれて初めて飛行機に乗った。
 「すべて初体験。怖いものも何も全然予想がつかない。何か起きても何とかなるだろう、くらいの気持ちで」。
  最初の訪問国はアメリカ、その一周に3カ月――。「何事につけても大きい国だ。自然も人間も、その考え方も。一週間毎日ペダルを踏んでも、景色が全然変わらない所もあるんですね」。



アメリカを旅するオリザ君

 言葉の障害は「話せなくとも通じるようになっちゃった。人間の使う言葉って、一定ですから……」。

  

  こんな調子で、感性豊かな少年の冒険旅行は26カ国、503日に及ぶ。
  この、ながーい長い道中の体験と実感は、オリザ君の手で五百数十枚の原稿用紙にまとめられ、昨年9月に発刊。その本の書名もながーい、75文字である。


著書『十六歳のオリザの冒険をしるす本』(講談社刊)

 
孤独なこの旅行で一番プラスになったこと、それは「一日中ペダルを踏むだけの毎日ですから、自問自答を考えることしかない。これがよかったと思います。日本にいたら、学校だ入試だ、とそんな考えるヒマもありませんから」。

 これからの長い人生の旅と真摯に取り組む、えんせん族・オリザ君、彼の前途に幸あれ!


      [
りれきしょ]


 昭和3711月目黒区駒場1丁目に生まれ育ち、19歳。目黒第一中を出て、都立駒場高校定時制に入学。2年間休学して自転車世界一周旅行≠達成。
 昨年はその体験を352ページの《16歳のオリザの冒険をしるす本》にあらわし、世間の話題となった。また昨年10月文部省大学人学資格検定試験に合格、今春大学入試をめざす。
 趣味は読書。家族は著述業の父、都教育相談員の母、祖母、姉の5人。



現在52歳。劇作家、演出家として、さらに大阪大学・東京芸大・京都文教大などの教授の要職にもつき、八面六臂の活躍中
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