編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.463 2015.02.12  掲載

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 えんせん族
 
  中井貴一くん(20)


   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和57年1月月1日発行本誌No.9 号名「梅」


   文:岩田忠利  写真:森 邦夫(日吉)


 父・佐田啓二を知るため映画界へ 
  映画『連合艦隊』出演

   中井貴一くん
    
(世田谷区玉川田園調布一丁目)


 「この子、とってもいい子なんですよ。佐田啓二さんの息子さんなの」
と、世田谷・砧の東宝撮影所で私に紹介したのは、中井君の大先輩、女優高峰三枝子さんだった。二人は映画『父と子』に出演、きょうクライマックスシーンの撮影中。

 佐田啓二といえば、一世を風びした映画『君の名は』の主演男優。あの甘いマスクと誠実な人柄からにじみでた名演技で全国のフアンを魅了したものだった。この名優がますます円熟昧を増した頃、山梨県韮崎で自動車事故死。原因は運転手の無理な追い越しだった。昭和29年、39歳の最期はあまりにも劇的であっただけに私たちの記憶に新しい。

 かれはその長男。ときに2歳半で、
「幼いボクには、さすがにその記憶はありません。でも、母は父の洋服を全部とっておき、ボクの大学入学式のときには、父のブレザーを直して着て行かせてくれました。また、父の靴箱には亡くなる前日まで入れてあったようにその靴が今でも……」


砧の東宝撮影所内で取材する筆者と中井君

   父譲りの低音、メリハリのある口調。大学のテニス部で焼いた褐色の顔。真っ白な歯。1b80の長身を黒の学生服で身を包んでいるせいか、一段とスリムに感じる。

 映画『連合艦隊』で最近デビューしたかれ、この世界へ入る動機は、
「父親を全然知らないボクが、どうしたら父を知れるかと考えまして、同じ職場で働いてみることが一番と思ったからです」
 とはっきり。

  その点、母上のご意見は、
「母も賛成です。父が39歳からあとにやり残した仕事を『あなたにやってもらいたい』とボクに言いますものですから……」
 で、これからの目標は「スタッフの方々が使いやすい俳優になりたい」。
 この言葉どおりかれはいま、周囲の皆から可愛がられている。その証拠に撮影所内でみんなが笑顔でかれに声をかけていく。

 こんな中井君も田園調布で生まれ育った生粋の沿線族。ふだんは東横線に乗る学生さんだ。見かけたらみんなで肩をたたこう――「親父の分までがんばれ」、と。



      [
りれきしょ]


 昭和36年9月、世田谷区玉川田園調布一丁目生まれ。20歳。成蹊大学経済学部2年。
 得意がテニス。読書は水上勉作品。母と女優の姉・中井貴恵との
人家族。身長180センチ、体重65キロ。芸名は本名と同じ。
 
なお、デビュー作のこの映画『連合艦隊』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞


              


それから33年後、俳優・歌手・テレビと映画プロデューサーとして活躍中の現在。53歳






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