編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
 NO.449 2015.02.03  掲載 


  

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”

   掲載記事:昭和578年9月月1日発行本誌No.18 号名「梨」
 
  街づくりの初心にかえって

  山口 知明

 社団法人田園調布会・副会長
    大田区田園調布3丁目

元祖まちづくり・助け合い



 わが国最初の計画都市として、わが町が誕生したのは大正の末のこと。ジャガイモと麦の畑が一変して放射線型の街になったが、文化的施設は電気だけ。ガス、水道、電話などは当町の住民が力を合わせ実現させた。買った土地に家を建てるだけでなく街づくりをした。町全体が公園であるように自分の家の庭の樹や花も、みんなで楽しもうとした。

 だれさんのお宅の紅梅が咲いた、どこの家の椿がきれいだと、次々に展開される環境の絵図を楽しんだ。それには住宅、垣根などにきびしい取り決めもあった。建築基準法もない時代にその約束は守られていた。近所づきあいも助けあいの精神でうまくいっていた。

 新婚共働きで、昼間ルスになる家には、隣近所の人が「今日は久しぶりに豆腐屋が来たから」と買っておいてくれた。赤ん坊が産まれると、「あの泣き声はお乳が足りないのよ」と先輩が教えてくれ、一事が万事、お世話にもなりお世話もする。コミュニケーションなどという言葉は知らなかったけれど。「遠くの親類より近くの他人」であった。


近所づきあいのすすめ



 今はどうたろう。あの戦争を境に住む人も変わり、時代も一変した。今、細君同士はPTAやスーパーで顔見知りができるが、おやじの方はそうは参らぬ。
 だいたい近所を知らな過ぎる。せめて日曜日の朝くらい、ホウキ持って家のまわりを歩きなさい。互いにまわりを掃除しながらどっちかが先に声をかければ、つきあいはそれから始まる。それがないから、イヤに遠慮深くなって、「裏のうちの木戸がこわれて風の度に音をたててうるさいが、直接言うのも角が立つから、町会からナントカ……」とくる。
 犬の鳴き声、焚火の煙、クーラー、ピアノの音など、いくらでもある。労を厭う訳ではないが、アッサリ言い合える間柄になるべきだろう。


 

 近所づき合いには、「見ざる、聞かざる。言わざる」の三猿主義と、何でも見よう、聞こう、そして口を出す「おせっかい」の二通りがあるらしいが、見ても聞いても知らないことにする腹芸も必要なら、言うべきことはハッキリ言って、言われた方も素直に聞く、そうした間柄でなくてはダメである。



イラスト:石橋富士子(横浜)

 

心の通い合う街に



 先頃、私たちは、街づくりの初心にかえり、田園調布憲章と環境保全の申し合わせを作った。原案を全員に回覧に供してアンケートをとったが、「この程度の申し合わせは、良識のある人なら当然のこと」という意見と「法律でさえ守られていないのに」と危ぶむ意見とがあった。

  私どもは、先住各位の勇気と努力によって、ここ迄になったわが町を悪くしないためにも、お互いに言いたいことを言い合える隣づき合いをしたいと思う。
  隣は物騒だ。うっかりすると訴えられる。裁判沙汰などは、まっぴら御免を蒙りたい。

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