思い出は30年を飛び越えて
カネボウ化粧品且謦役 古島町子
洋風でところどころペンキのはげ落ちた、家庭的な雰囲気に満ちた田園調布駅を乗り降りしたのは、今から30年も前のことになる。
私が在学していた頃は、木造2階建ての小じんまりとした学校であった。校門へ通じる道の両側は、見事な桜並木で葉桜の頃には、ケムシに悩まされたものである。
母校の想い出ということになると、結論的には、「余りいい生徒ではなかった」というところに落ちつきそうなことばかりである。「精進」ということを教えられたが、きっと先生は、教育方針として、良妻賢母型のお行儀のいい子女をと思っておられたのであろう。
先日久しぶりに恩師にお目にかかり「出来の悪い生徒でしたから」とやや謙遜のつもりで言ったところ、どの先生も「その通り」という顔つきで深くうなづかれたので改めて「出来の悪さ」を自覚したようなわけである。
一番印象に残っているのが、講堂の床掃除と放課後のバレーボールの練習と、遅刻をして通用門で風紀係にうっかり改札口とかん違いして定期券を見せてしぼられたことぐらいで、不思議に勉強の中味と教室の風景は浮かんでこない。それだけに懐かしい母校であり、充実した女学校生活であった。
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東京日本橋生まれ。昭和24年卒。28年カネボウ化粧品鰍ノ入社。
毎日新聞におしゃれ″を連載、反響をよぶ。さらにフランスのヴォーグ社との業務提携では立役者となる。
現在、同社取締役・美容部長。
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