編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏 / ロゴ:配野美矢子
NO.316 2014.10.21  掲載 

        


  筆者:アルメル・マンジュノ
さん
   
  フランス人(女性)・港北区日吉在住

  アルメルさんの職場が下記へ変わりました。
 慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの環境情報学部とNHK文化センターのフランス語講師

  あなたは日曜大工やりますか
         

  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:平成3年8月1日発行本誌No.54 号名「榛
(はん)
   

 
清々しい初夏の日差しが降り注くようになってきました。うちのベランタは花でいっぱいです。パラソル付きの白いテーブルとお揃いの椅子も出してあるので、日曜日の朝などは、そこで花を眺めながらブランチをとったりします。

 「おしゃれ!」なんて言ってくださる方もいるかしら。実際、住まいを快適にするために、自分であれこれやってみるのはそんなに難しいことではありません。ほんの少しのアイデアとやる気さえあれば十分なのです。



     欧米人の住宅観


 日本に来た当初は、目新しさとエキゾチスムに惹かれ、他の外国人同様、日本風の一戸建ての家に住んでみました。いちばん広い部屋は8畳でした。とても気に入っていたのですが、じきにもっと広い空間が欲しくなってしまいました。東京のような大都会に暮らしたり働いたりしていると、身動きできないような電車に乗ったり、狭いオフィスで息苦しい思いをしたりする毎日ですから、自然と広い部屋に住みたくなってしまいます(少なくとも欧米人はそうでしょう)。いま住んでいるマンションは、3LDKだったのを間仕切りを取り払ってワンルームにしたものです。

 こうした広さの所にいると、つい家具を買いすぎてせっかくの空間を狭くしてしまう恐れがあるので、キッチンのカウンター、仕事机、壁にぴったりの本棚をすべて自分で作ることにしました。

「えっ!」と驚くかもしれませんが、実はそんなに難しいことではありません。
 寸法を決め、ロフトや東急ハンズへ行って細かく注文をつけながら、板を切ってもらうだけでいいのです。

 あとは、板が配達で届いたら、組み立てて塗装をすれば出来上がり。
 もちろん、アラを探せばいろいろあるでしょう。でも、使いたい場所にちょうどの大きさのものが出来るし、自分の手で作った満足感も得られます。




ッチンのカウンターに付けた棚



   フランスではみんなが楽しむ日曜大工


  
フランスへ行くと、日曜大工専門のスーパーがたくさんあるのにびっくりすることでしょう。道具箱・ドリル・鋸・脚立をはじめとする道具類は、しばしば新婚祝いのリストにも加えられます。

 「日曜日は何をするの?」
 「友だちが部屋を塗り替えるんで、その手伝いだよ」

 フランス人にとって、家の修理、それも特に塗り替えは楽しい気晴らしなのです。バカンスに友人を訪ねると、どこへ行ってもその出来栄えに感心させられます。ブルーカラーだろうが、ホワイトカラーだろうが、日曜大工というのは、だれもがいつかは手を染めることがあります。

 29歳になる私の妹の一人は青春時代をガリ勉で通し、今は大企業のバリバリのキャリアウーマン。去年訪ねてみると、家の前でドアを架台に載せオーバーオール姿でニスを塗っていました。

 また、高校時代の友人は義理の父親と毎週末をつかって3年がかりで修理した家を見せてくれました。天井・フローリングの床・キッチン・バスルーム・階段、それから子供のベッドまで自分たちで作っているのです。奥さんは壁紙を張り、カーテンを縫ったそうです。「ぼくも手伝ったんだよ」と言ったのは7歳の坊やでした。

一体、みんなどこで覚えたのでしょう? 別に教えてもらったわけではありません。とにかくやってみて、くじけずに続けただけです。


ぼくも手伝うペンキ塗り
 「これじゃあ、フランスの大工さんは失業じゃないか」ですって、そんな心配はありません。ただ、どうにも手が付けられない時にしか大工さんは頼まないということです。見かけによらず、フランス人には節約心があるのです。



    大工さん任せの日本の男性


 
いっぽう日本では些細なことにもすぐプロを呼び、高い料金を払うことになっていやしませんか。だれもがバスルームやキッチンの配管まで自分でできる訳ではありませんが、ちょっとしたことは自分でやってみてはどうでしょうか?

 腕の良い職人さんがあれほどたくさんいる日本のことですから、器用な人は随分いるはずなのに、室内装飾を自分でやってみようという人が少ないのはどうしてでしょうか。

その理由を訊くと「面倒くさい」、「出来合いが安く買えるのに」という答えが返ってきます。どうも、家にいる時間の多い女性のほうがどんどん大工仕事に挑戦するようになってもらうより他に手がなさそうですね。

 日本の男性の方には本当にがっかりさせられます。室内装飾に関してはアイデアもイマジネーションもゼロなら、やる気もゼロ! 

 私の知り合いの男性の中には、なんとか釘を打てるのが2人だけ。それも仕事柄やるようになったんですって。


 お天気の悪い日曜日(日本は雨がたくさん降る国ですよねえ)、お昼まで寝ていて、午後はビール片手にテレビを見るなんてことはやめて、住まいのあちこちに手を入れてみてはどうですか。

 子供たちにも仕事を与え、音楽でも聴きながらの仕事はけっこう楽しいと思います。また家族の人間関係のためにも良いでしょうし……。

 やはり家族を幸せにする男性とは、家に給料を運ぶだけで事足れりとする人ではなく、家族のために心地よい環境をつくろうと積極的に努力する人ではありませんか。



こんな日本のお父さんの姿はいかが…




    今後は若い世代の日本の男性に期待


 
「若い世代は変わってきますよ」という声は、信じたいと思います。ただ父親がいつも家にいなかったり、母親が男の子を王様扱いにして、あれこれ世話をやき、家の手伝いは何もさせないようでは、どうも心許ない感じがします。金槌や鍋を手にしたお父さんの姿を一度も見たことのない子は、大人になっても家族のために日曜大工や料理を始めるようにならないんじゃないかしら?

 福島県会津市の地で、古い農家の母屋を買い取って修復し別荘にしようという都会の家族を手助けする組織を作った、と去年某雑誌にお知らせが出ていました。素晴らしいイニシアチブですよね! 
 都会では自分の家を改良する気にならないとしても、田舎ならやる気を起こしてくれるのかもしれないと思いました。誤解のないように……。私は縁側や火鉢など揃った伝統的日本家屋への回帰を主張しているのではありません。そうではなくて、木や紙や布や瀬戸といった日本の基本的素材の美しさを活用してほしいと思っているだけなのです。

 ある友人から日本で暮らしている外国人の住まいを特集した『
1apan Art of  Living』(Charies  E
・Tuttl社刊)いうとても素敵な本をいただきました。ページをめくっていくと、まさに日本式家屋の優雅さや落ち着きも関心を持ち、現代風にアレンジし住みやすくしようと試みているのは外国人のほうではないか、という気がしてきます。
 まあ、面白いと言うか、おかしいと言うか、やはり日本人の方もがんばっていただきたいですね!


 
                                            イラスト:俵 賢一(大倉山)
                
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