編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏 / ロゴ:配野美矢子
NO.315 2014.10.21  掲載 

     


  筆者:アルメル・マンジュノ
さん

  フランス人(女性)・港北区日吉在住
  アテネフランセ&NHKラジオのフランス語講師

  アルメルさんの職場が上記から下記へ変わりました。
 慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの環境情報学部とNHK文化センターのフランス語講師

  日本から受けた影響の数々
         

  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:平成3年4月15日発行 本誌No.53 号名「朴
(ほう)

   


  
この春で私の日本滞在も?年目に入ります……当連載の長さをお察しください。

  さてこの機会に、私が日本から影響を受けた点と受けなかった点のバランス・シートを作ってみることにしました。もちろん、取り上げるのは日常の些事ばかりですが……。



   身についた日本式習慣


 

 まずは日本的になった点から。ゴミは回覧板の指示どおり分別しています。手紙を開封するときは短い方を切るようになりました。物を包むことの大切さも覚えました。

 例えば、お金を渡すときは必ず封筒を用意します。フランスにいる頃はむき出しのまま相手に握らせても平気でした。贈り物をするにも、外見も中身同様、相手を喜ばせるように箱や包み紙やリボンに凝るようになりました。

 料理の見た目の美しさに気を遣うのも、こちらへ来てからのことです。目も口と同じように料理を味わうのですね。

 料理といえば、今ではまな板なしには済まされません。フランスに帰ったときも、トントンとやっていたら家中がびっくりして「名シェフのつもりなの」と笑われてしまいました。

 

 それから炒め物や揚げ物をするときのお菜箸(さいはし)。あんな重宝な物はありませんね。食べるときも、食べ物を引き裂き歯にカチンとあたる金属のフォークよりもお箸びいきです。私だけじゃありません。フランス人ミュージシャンのジャン・ミッシェル・ジャールもお箸派で「箸とフォークじゃ、スパゲッティの味も違うんだ」と言っています。一方、食は欧米人の平均に比べ、だいぶ細りました。

 自宅に友人を招くよりもレストランで済ませることが多くなったのは、私も日本人と同じように、面倒くさがりやになった証拠でしょうか。



便利なまな板



重宝な箸



    母国で意識すること


  

 暮れの大掃除は必ずやっています。お風呂は季節を問わず毎日です。おかげで里帰りすると、母に水の無駄づかいと怒られます。恥ずかしい話ですが、フランス人は体に関しては日本人ほどきれい好きではありません。

 道路はちゃんと信号が青になるまで待って渡っています。信号なんか無視、牛若丸よろしく車の間を擦り抜けて行くのがフランス式なのです。

 カフェで本を読むのもこちらへ来てからのこと。読むといえば、横組みの外国雑誌をつい後ろのページから開いてしまう変な癖がついてしまいました!

 

 数カ月も前からホテルを予約するのが当たり前と思うようになったのも、買い物を主にデパートでするようになったのも、もちろん日本に来てから。

 また、お誘いを受けたけれど行きたくないというとき、日本人の皆さんが(都合〉という言葉を使って上手に断るのを見て、私も覚えました。こんな言葉はフランス語にはないし、嘘をっくみたいでイヤですが、この日本ではホンネを言うと人を傷つけることになりますので、仕方がないでしょ……。



信号無視、危険な道路横断はフランス人

今はちょうど春ですから、最後に日本人の桜好きが私にも伝染していることを付け加えておきます。2年前の春、フランスで桜とリンゴの花を夢中になってカメラに収めていたら、周囲がびっくりした顔で見ていたのを思い出します。

 帰国子女問題ではありませんが、日本の影響というのは、フランスへ帰って自分が保守的で、こせこせしたうわべだけの人間と誤解されたときなどに強く意識させられます。





    どうもこの点だけは…


 
さて、今度は何年経っても、なじめないものを挙げてみましょう。

 仕方なく私もやっていますが、バルコニーに洗濯物を干すなんて今でも抵抗があります。やはりカッコよくありません! それから、道路のほこりを直接かぶるような所に布団を干す無神経さにはついていけません。どこかで干さなければならないのは分かりますが……。

 炬燵もダメです。あれは無精になります。それに、炬燵にあたっていると、西洋人女性は足がむくんでしまいます。


布団干し



コタツ



麺の食べ方

 どうしても私にできないのが、麺類を「ズ、ズー」と吸い込むことです。「音を立てずに食べろ」と躾られたせいかもしれません。日本人は麺類に限らずお茶やおみおつけを音をたてて飲むことが味わう楽しみに含まれていると考えているようですが、私は今後もこの食べ方にはなじめそうもありません。
 この冬休みはバリ島の地中海クラブで過ごしましたが、食事中に注目を集めている日本人の男性を見かけました。
 国際的に注目を浴びるのは素晴らしいことですが、できることならもう少し別の分野でのほうが良くありませんか。

 お歳暮・お中元はいくら戴いても一切お返ししないことにしているのは以前述べたことがあります。


 もちろんバレンタインのチョコレートなんて断固反対です。
 名刺は持っていますが、肩書きは書いてありません。貰った相手は戸惑うかもしれませんが、肩書きという枠にとじこめられるのがイヤなのです。


 服装に関しては全く日本人と逆です。年齢や職業といった制約には従順でありながら、分相応という考えはなく、ブランド物を追いかけるのが日本人なら、私は年齢や職業に関係なく好きな物を着ますし、回りの人にどう思われるか全然気にしません。

 テレビは好きですが、日本人みたいに我が家の同居人扱いはしません。お客様が来れば消してほしいし、私は消しています。

 相撲ファンにもなれそうにありません。これは、お相撲さんの体型が私のタイプじゃないという個人的な理由からですが。







どうも好きになれないお相撲さんの体型



 女性は怒るべき、男女同一労働・同一賃金問題



 
最後に、仕事に関してのことです。男女同一賃金や機会均等の実現がまだ不十分だといった話を聞くたびに、日本人女性はもっと怒ってもいいのではないかと、歯がゆい思いをします。
 それとも、ことを荒たてず、笑顔をつくりながら時間をかけ、じわじわと自分の要求を認めさせていくのが、日本女性のやり方なのでしょうか。
 私なら辞表をたたきつけて自分をきちっと評価してくれる所を探します。耐えることを知らない、わがままな外人と言われても、私はそこまで日本的にはなれません。男性と同じ学歴があり、男性と全く同じ仕事を毎日すれば、やはり男性と同じ賃金を受け取るのは当たり前です。

 日本のエキゾチズムに魅せられた私は、日本人、それも同性である女性の真似をすることで、そのエキゾチズムに浸ろうとしてきました。それによって大いに得るところがあった反面、次第にフランス人である自分を無理に押さえている場合があることに気付きました。
 今では無理をせずに柔軟な姿勢を保つように心掛けています。日本人の皆さんは、外国人が日本に順応することを心から望んでいるのでしょうか。外国人は外国人らしくしたほうが良いとする風潮になってきたような気がします。


                                           イラスト:俵 賢一(大倉山)

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