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NO.314 2014.10.20  掲載 

        


  筆者:アルメル・マンジュノ

   
  フランス人(女性)・港北区日吉在住
  アテネフランセ&NHKラジオのフランス語講師

 

   私が占いに惹かれる理由(わけ)
         

  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:平成2年12月15日発行本誌No.52 号名「楡
(にれ)
   


 
 春の京都でのことです。フランス人の女友だちと哲学の径を散歩していると雨ガ降り出しました。「占いだわ。雨宿りに入りましょう」と、だしぬけに彼女が言います。そこで心ならずも尼さん姿の年をとった占い師の前に座ることになりました。こちらが外人でも別に動じる様子はありません。名前を片仮名で書くだけでいいと言います。

  なんだか眉に唾(つば)をつけたくなりました。漢字の名前から姓名判断するならともかく、片仮名だけだなんて‥…・。
 それがなんと私たちは結局2時間もそこにいたんです。尼さんは、片仮名の名前だけからびっくりするほどたくさんのことを言い当てました。




  初の占い体験は……


 占い体験は、その時が初めてではありません。以前NHKから夜遅く帰る時、渋谷駅近くで見てもらったことが何度かあります。易者は男性のこともありましたし、女性のこともありました。

 どうして見てもらう気になったかというと、まずは好奇心からでした。大通りの、それもとりわけ人通りの多い所で占いをしているのが珍しかったのです。占いというのは、占い師の奇妙な飾りつけをした部屋で、他人の目や耳に煩わされることなく行われるものと思い込んでいたのです。また、人々の占い師を見る目がフランスほど冷たくないのも意外でした。それから、日本語の勉強に占いの抽象的表現を聞いてみたいとも思ったのです。

 
 ありがたいことに、どの易者さんも日本人に対するのと同じように接してくれました。あとは、古代中国の歴史を背景にした東洋運勢学の神秘的魅力に西洋人として惹かれたということもあったでしょう。



    日本に来て知った東洋占星術


 
日本に来る前は、西洋占星術による自分の星座と誕生日しか知りませんでした。私は1222日の夜から23日にかけて生まれた山羊座です。私はずっと自分の誕生日を呪っていました。
 冬至の夜に生まれると性格が暗くなるなんて迷信がありましたし、この日は大抵クリスマスの準備に忙しく、満足に誕生祝いもしてもらえなかったからです。
 ところが日本にいる今は大違い。光栄にも今上陛下と同じ誕生日で祝日ですからね。それはともかく、人それぞれに干支や本命星があり(歳が分かるから私のは内緒)、自分の人生が
12年毎の周期で回っているのを知ったのは日本に来てからです。たいへん興味をひかれ、もっと詳しく知りたいと思っていたところ、87年に里
帰りした時ちょうど中国占星術の本が仏語で出ていたので何冊か買い求めました。

 そう駆り立てたのは、将来のことを知りたかったからではありません。それよりも自分の性格や周囲の人たちとの関係をより一層理解したかったからです。
 たとえば、どうしたことか私は妹の一人と昔から折り合いが悪いのです。長い間そのことに悩み、なんとかならないものかと散々努力してみましたが、お互いの性格を東洋占星術に基づいて比べてみて、これは諦めるより他にないと悟りました。まるっきり水と油で、これには私も思わず苦笑してしまいました。
 反対に気の合う人や惹かれる人には、占いのほうからみても色々と共通点があることに気づきました。合う人ごとに誕生日を訊き出して相性判断をしている訳じゃありません。でも、びっくりするほどピタリと当たっていることってあるんですよね。

 もう一つ感心したのは、こちらの占い師が先祖のことまで言及してくれることです。大抵は当たっていました。少なくとも私の知る限り、西洋の占い師はこの点に全く触れません。なんだか私も未来のことより先祖や過去のことを大切に思うようになってきました。



    フランス人には後ろめたい占い


 
実を言うと、私は占い師に見てもらうたびにかなり後ろめたい気分になっていたのです。
 こんなところを心理学部時代の恩師に見られたら困るなんて思いもしました。そういえば、一度通りかかったフランス人同僚に見咎(みとが)められ、そんな愚にもつかない話を聞いてどうするの? とからかい顔で言われたことがあります。いや、その、ちょっと……とその時は説明に大汗をかきました。

 どうして私が後ろめたく感じるのか考えてみると、やはり宿命という観念を退けるキリスト教教育のせいとしか言いようがありません。
 敬虔なキリスト教徒にとって、星まわりによって運命が左右されると考えることは、星まわりが神よりも上に立つことになるのでタブーです。だからそれを迷信と見下す風がフランスにはあります。

 ところが驚くまいか、キリスト教の衰退と共に星占いが陽の目を見るようになってきたのです。
70年代にマダム・ソレイユ(星のお姫様と訳せば良いかしら)がラジオで星占いの番組を初めて大成功に収め、80年代に入ると星占いの雑誌が部数をぐんと伸ばしました。最近の調査では星占いと、すでに科学と認知されている筆跡学(筆
跡による性格判断)と同等に位置付けている人が40%にも達しています。かといって、猫も杓子も占い師の門を叩いている訳ではありません。悩みを抱えた人がもっぱらで、これはどこの国でも同じでしょう。

 私個人としては、東洋に暮らしていることもあって、一層東洋運勢学に影響されていくような気がします。いつか勉強してみたいとも思っています。そのうち引越しや転職の際に吉日を占ってもらうかもしれません。



   占いで何と言われても性格だけは……


 
例の尼さんによれば、年内は西の方角へ行かないほうがいいそうです。それを聞かずに、バカンスにフランスへ帰ってしまいました。このまま何事もなく90年が終わってくれればと祈っています。
 友人のほうは、以前から子どもができなくて落ち込んでいましたが、来年中に何か嬉しいことがあると言われ、顔をほころばせていました。いよいよその来年がやって来ます。こちらは当たりますように。

 その彼女が言いました。
 「ねえ、ひとつ気になったんだけど、尼さんは私たちが2人とも強情だってことを咎めているみたいだったね。それにしてもおかしいわね。フランスなら長所なのにこっちでは欠点だなんて、それも特に女のね……。我が強いぐらいでなければ日本の生活に適応して仕事をバリバリやっていける訳ないのにねえ。」

 本当に私もそう思います。それに占いで何んと言われても性格を変えるのは難しい、難しいこと……。
 さて、来年のヒツジ年に生まれてくる子どもたち、すべてに良い運勢が授かりますように……。

                                   イラスト:俵 賢一(大倉山)

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