国境もひと跨ぎ、快適な車の旅
こういう嫌なことに出くわさず、田舎の素敵な所でひょいと足をとめ、土地の美味しいものをゆっくり味わうには、やはり車が一番ということになります。親戚やあちこちに散らばっている友達のおかげで、私の大好きな計画を立てない“ぶらり旅”を何度か楽しむことができました。その幾つかを紹介してみましょう。
ある暑い日、従妹(いとこ)から「レマン湖までドライブしてひと涼みしない?」と誘われました。距離は150キロ。2時間で湖に着き、別にせわしない思いもせず、夜には帰って来ました。
次はアルザス地方を旅行中のストラスブールでのことです。妹がふいに、「向こう側(西ドイツ)もちょっと見てこない。いいところみたいよ」と言うので、すぐ実行。もう一度は、フランス人と結婚してリールに住む友人の日本人女性を訪ねたときのことでした。日曜日の午後の2時頃、ベルギーのブリュージュに行こうという話になったのです。そこは中世のたたずまいを残した美しい町で、200キロ程離れていますが、この日も日帰りで身軽に行って来ました。
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ベルギー北西部の町ブリュージュは、ベルギーの代表的な観光地 |
それから、日本のホームシックにかかった日(時々あります……)、こちらの原発に出稼ぎに来ているイタリア人技師で母の知りあいの人が、「週末に家族のところへ帰るから、トリノまで乗せてあげようか、向こうで旨いピザでも食べてくれば……」と声をかけてくれました。金曜日の夜に4時間車に揺られるのはちょっとしんどかったけれど、向こうへ着くと、言葉も人も風景も習慣も一変し、刺激的な心地よさに見舞われました。
こんな具合に、わずかな間に、4度国境を越えることになりましたが、証明書のたぐいは一切必要ありませんでした。こちらでは、日曜日のお散歩に国外へ足を伸ばすことも可能です。どこに予約するでもなく、ゆうゆうと出かけられます。渋滞の心配も無用。国道、県道ともに整備されていますし、料金所だらけの高速道路もありません。
高速道路でB、NL、D、S等で始まるほか越境することがすっかり定着しているのを実感します。1992年に統合ヨーロッパの時代が始まれば、こうした動きにもっと幅が出てくることでしょう。通貨と資本の自由な移動や域内各国の職業資格を同等に適用させることなども夢ではありません。
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