日本の台所やベランダ
「きれい」という観念は、世界中どこでも同じというわけではないような気がします。日本ではそれが何にもまして個人の品位に結びつけられているのではありませんか。見える所はきれいにしておく。でないと恥をかく。でも、見えない所は、それほど気を使わない。
先日アパート探しをしたフランス人が、日本の台所を見てびっくりしたと話してくれました。「いい社会人類学の勉強になったよ。台所なんて他人の目に触れる所じゃないからね。まったくひどい有り様だった」。そこいらじゅうに飛び散る油汚れのせいだけであって、日本ではフランスより台所をきれいにしておくのは難しい、と私はその人に答えておきました。でも、台所に限らず日本の家の中に関しては、きれいや汚いの問題よりも片づいているかいないかの問題だと思います。
フランス女性、あるいは欧米の女性は必ずすべての物を台所の戸棚に仕舞ってしまいます。鍋一つにしろ、出しておくということはありません。日本では、アジアの他の国々同様、料理道具をあちこちへ積みあげておく。部屋のほうでも同じ。タンスの上にはミカン箱やら何やら色も形もさまぎまな物が積みあげてある。
これは、欧米人の美的感覚に衝撃を与えます。さらに家の狭さとあいまって、散らかっているという印象は強まるばかり。ベランダも例外ではなく、いろんな物があきれるほど置いてあるのをよく見かけます。
日本人女性と結婚したヨ一ロッパの男性は、妻が家を片づけないので困るとこぼします。が、これは、ヨーロッパ式片づけの観念に従って片づけないというべきでしょう。
日本のインテリア雑誌をめくってみればわかります。大抵、部屋にいろんな物を入れ過ぎで、スタイルの統一に無頓着です。それに、日本人は自分の家に多くの物を取って置きすぎるのです。私だったら少なくともあの半分は捨てます。
フランスの雑誌によく紹介されている伝統的日本家屋の内部は、床の間に生花があるだけの簡素な趣なので、こういう現実には余計びっくりさせられます。
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