編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏 / ロゴ:配野美矢子

       NO.301 2014.10.16  掲載


  筆者:アルメル・マンジュノ


  フランス人(女性)・港北区日吉在住
  アテネフランセ&NHKラジオのフランス語講師

 

   激変した! 日本男性スタイル観
         

  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和62年6月1日発行本誌No.38 号名「楢」
   


 
また私の苦手な夏がやってきました。でも、二つだけいいことがあります。一つは去年の今頃とりあげた果物の豊富さ。そしてもう一つは、バーゲン・セール! 

 フランスにもあるけど、こちらのは本当にいい物が手に入ります。ちょっと男っぽい服装好みの私は――これは母ゆずり―― 横浜や渋谷のデパートの男物売り場を見て回るのが大好きです。



      君は絶対モテる男になる


  私が来日した10年前に比べると、最近の男物はとてもステキなのが増えてますね。若い男性がおしゃれになった証拠でしょう。

 年齢が上の世代は、こういう風潮をあまりよく思っていないようです。男は外見を飾るより中身で勝負。服に金をかけたり、化粧に興味をもったりなんてとんでもない、といった声を耳にします。
 でも、私は反対に、日本の若い男性がおしゃれになったのはとてもいいことだ、と思っています。もちろん、ちょっとぎこちないところもあります。自信がないせいか、男性モード誌のアドバイスを守りすぎるのです。でも、自分のスタイルをものにするのは時間のかかることですから、少しずつよくなっていくでしょう。

 ところで、最近ぞくぞく創刊されている若い男性モード誌は、私のような外国人女性にとって興味津々の存在です。フランスの雑誌ではお目にかかれない記事がたくさん出ているからです。

 たとえば、「こうすれば、君は絶対にモテる男になる」なんていうタイトルで、着る物やデート・コースは言うに及ばず、女の子の扱い方まで、していいことには○、だめなことには×のついた実演写真入りで説明しています。こういうことは、人に教えてもらわなくても、若者は自分一人で自然に見付けだせるはずだ、とフランスで考えられていますが……。
 もう一つ私が驚いているのは、こうした記事が、どこのだれだか分からない人によって書かれ、また、それをみなが普通だと思っていることです。

 



書店に並ぶ日本の男性ファッション雑誌


 また、「男らしさとは何か」と訊かれた若いタレントたちは、いろいろとこねくりまわした定義をしています。ところが、自分の個性を伸ばし、肩肘張らずにいること、なんて答える人は一人もいないのです。じつは、なぜこんなことをしつこくたずねるのか、私にはよく分かりません。

 日本は、女は女らしく、男は男らしくあらねばナラヌという二極分化社会なんですね。
 でも、過去
30間に学者たちが、すべての人間に女性的特質と男性的特質が同時に備わっている、と証明しているのではありませんか。
 今の時代に男らしさをうんぬんするなんて……若者によけいなプレッシャーを与えるだけだわ。かわいそうです。



      日本男性は社交的か


  
最近とても失望してフランスから帰って来た若い日本人男性のことを聞きました。その人は半年も向こうにいたのに、フランス人、それも特に若い女性と友だちになれなかったのだそうです。
 まあ、人によりけりだし、うまくいっている人もいるのは確かです。でも、一般的に日本の若い男性はあまりフランス人女性にモテないようです。なぜか?

 まさに、この男らしさを気にしてばかりいるからだと私は思います。一番の心配事が彼女にどう思われるか。値ぶみされるのもフラれるのもいや! でも、もっと自然に振る舞えば、ずっとうまくいくはずです。それに、フランスでは、フラれても恥をかくことではありません。若い日本人男性が、本当に外国人、それも女性と友だちになりたいなら、自尊心をおさえ、もう少しユーモアを持つことが肝心だと思います。

 「高倉健、好き?(ハイ、好きです)。日本男子そのものでしょう? 無口で、男らしくって」、なんて訊かれることがよくあります。
 でも、無口な男性はどこの国にもいます。アラン・ドロンは無口で有名だし、マルセロ・マストロヤンニや、オマーシャリフや、ハンフリー・ボガードだって。この
人の国籍を順にいうと、フランス、イタリア、エジプト、アメリカ。無口なのは、日本人だけというわけじゃないでしょう。
 ただ違うのは、無口な外人男性が女性を前にしてあまりしゃべらないのは、黙っているのが好きだからですが、特に日本人の男性の場合は、何をしゃべっていいか分からないか、口をきく必要がないと思っているか、でなければ、面倒くさいからではないでしょうか。


 だけど、日本男性がこういうことに不慣れなのは、女性の方にも少し責任があります。私のクラスのおしゃれで、あけっぴろげで、感じのいい若い男子学生がお花をくれたり、服をほめたりして私を喜ばせてくれることがありますが、そうするとすぐ後ろの方で女の子たちの「キィザァー」、という囁きが聞こえてくるのです。キザでいけないことでもあるのかしら。自然で、嫌味にならない程度でも、女性にお花を上げたり、ほめ言葉を言ったりしてはいけないのかしら。どうなんですか。
 こういうとき、私は相手のやり方の粋なところをお返しにほめています。こういう若い男性こそ、最近耳にタコができるほど話題になっている国際化″に適しているのではないでしょうか。




        中年男性のイヤラシさ


 
日本にいる外国人女性の大部分は、私同様、中年の男性より若い男の子の方が断然いいと思っているはずです。

 中年の男性ときたら、どぶネズミ色の背広にやたら陰気なネクタイをして、電車に乗れば股をおっぴろげて座り、大口をあけてあくびをし、朝からお尻が満載のスポーツ紙を読み、ホームでは人の足にかからんばかりにタンをはき……このくらいにしておきますが、なんていうエチケットでしょう!


イラスト:石野英夫(元住吉)

 いつも思うのですが、人前でこれですから、家ではどんなでしょうね。また、それを我慢している日本女性、すごいの一言です。

 これは日本だけのことではない、とみなさんは言うかもしれません。確かに韓国・台湾・インドなどアジアの国々には、日本と同じか、あるいはもっとひどいところがあります。

 しかし、日本は世界第3の先進国ですよ。ちょっとショックではありませんか。それとも、あまりエレガントとは言えないこういう振る舞いも、例の男らしさの一部なのでしょうか。

 ところで、誤解のないように言っておきますが、私は中年の男性をみんな一緒に切り捨てるつもりはありません。すばらしい例外がありますよ。たとえば本誌の編集長さんは、品があって、エレガントで、声も魅力的で……ともかく、これはちゃんと言っておかないと、この連載が打ち切りなんてことに……ネ。

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