編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
編集:岩田忠利      NO.253 2014.9.28  掲載 

住み心地は満点 学芸大学

     SF作家・横田順彌 


  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”


   掲載記事:昭和58年5月1日発行本誌No.16 号名「柏」

   


     
豊富な緑、静かさ、仕事がら最高の環境


 30年間住みなれた緑が丘から、いまの住所に引っ越してきて、この4月で、まる5年になる。緑が丘が、非常に住みやすい町だったので、あまり遠くへいきたくなく、なるべく近くて、雰囲気の似たところという条件で、不動産屋さんに探してもらったのが、世田谷区野沢三丁目だ。

 学芸大学という住居表示がないので、どこからどこまでが、学芸大学という町の範囲に入るのかわからないが、もっとも近い駅が学芸大学駅であり、買物をするのは駅前商店街であるから、学芸大学の住人といって、まちがいはあるまい。

 「ここなら、緑は豊富だし、静かだし、緑が丘より住みやすいくらいですよ」
 引っ越す時、不動産屋さんは、こういって保証してくれたが、なるほど、住みやすい町だ。

 ともかく、静かなことがうれしい。ぼくは、書いている作品のわりには、周囲が静かでないと筆の進まないタイプなのだが、いま住んでいるところの静かさは、文句なし。
150メートルほどしか離れていないところを、環状7号線が走っているのに、昼間でも、自動車の音が耳に入ってくることなど、ほとんどない。ぼくのような仕事をする人間には、最高の環境だ。
 静かなぶん、活気に欠けるかというと、そんなことはない。学芸大学は、都心への交通の便がいいので、学生さんや若いサラリーマン、OLのひとり暮しも多いようで、商店街は、いつも、若い人たちでにぎわっている。

 休日の昼下りなどは、若い親子連れで、町はごったがえしている。自由が丘あたりと比較するわけにはいかないが、ハンバーガーやフライドチキンなどの店もたくさんあり、家族で、ちょっとした憩いをとるのに、とても適している。



     大小たくさんの公園


 
庭の広い旧家が多いので、緑はどこを歩いても目につくが、公園もたくさんある。小さな児童公園は、わが家から徒歩で5分以内のところに、3つもあるし、123分歩けば碑文谷公園がある。

 碑文谷公園は、さほど大きな公園ではないが、池があってボートが楽しめるし、小動物園などもあるので、時折、3歳の娘を連れて遊びにいく。いささか、仕事が詰まりすぎてしまって、頭が回転しなくなった時など、気分転換に散歩するには絶好だ。
 夏になると、この公園で盆踊り大会が開かれる。ここは、住居表示でいくと、目黒区だが、世田谷区の住人も目黒区の住人も区別なく、楽しげに踊りの輪を広げている。

 学芸大学付属高校のすぐそばには、世田谷観音がある。境内は広くないが、ここにも、時々、足を運ぶ。ベンチに腰をかけ、鳩でも見ながら、ぼんやりしていると、生命の洗濯をしているような気分になる。ここは、訪れる人が少ないので、ぼくにとっては、ちょっとした穴場になっている。

 もっと、緑に接したい時は、駒沢公園までいく。徒歩で
20分から25分。やや、距離があるが、ゆっくりと歩いていけば、ちょうどいい運動になる。
 なにしろ、仕事がら、ほとんどスポーツをやることがないので、夕方にでも、家からここまでジョギングをし、ついでに公園内を一周りすれば、かなり、身体のためにいいのではないかと考えてはいるのだが、これは、考えているばかりで、いまのところ実現していない。



学芸大学駅頭で筆者

                  撮影:小椋 隆(自由が丘)


     理想はこの街に家を持つことだが…


 
治安も極めていいようだ。むろん、実際には皆無ではないだろうが、近所にドロボウが入ったとか、暴力沙汰があったなどという話は、ついぞ聞いたことがない。
 ぼくは夜型の人間で、アイデアのまとまらない時など、深夜の町を、ふらふらと歩いているが、不審な人物を見かけたこともない。(ぼくが、不審な人物に見られている可能性は、おおいにあるが)

 もの心ついてからは、ぼくは、この町と緑が丘しか知らないが、学芸大学は、住みごこちのよさでは満点に近いのではなかろうか。
 いまの家は借家なので、いずれは引っ越しをしなければならないことになると思うが、できることなら、この町を離れたくない。
 理想は、いまの住所の近くに家を購入することだが、それは、ぼくの経済力では、まず不可能に近い。どうしたものだろうと頭をかかえている。なにか、名案はないものか……。




イラスト:はらだたかこ(大口)


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