ナナへのわが家の気遣いと向かいの家の待遇
いじめられっ子「ナナ」にとって、ここ日吉こそ安住の地だと思ったのでしょう。わが家の近所の家々を次々訪ね回っていたようです。
ナナの境遇を知ったわが家では「ナナちゃんが訪れたときは、必ず餌をやりましょう」と申し合わせた。気まぐれナナは何日も顔を見せなかったり、ふらっと立ち寄ったりする。そんな時は家中で大喜びして牛乳・パン・魚などでもてなすのである。
底冷えの初冬の夕方、やせ細り薄汚れた野良猫のようなナナが玄関先にうずくまっていた。急いでダンボール箱に足温器を入れ、その上にシーツを敷いて即席猫小屋を作って寝かせた。が、翌朝はすでに、もぬけの空。「こんな寒い日、ナナはどこで、どう過ごしているのだろう?」彼女の消息を気遣うわが家ではよくそんな話をしたものだった。
後で知ったことだが、向かい側の家、榎本さんの家でも奥様がナナを「乳牛のような模様のネコだから、名前を“モ−モちゃん”と名づけ、可愛がっていたのだった。
その奥様が病魔に冒され入院。その間は動物好きのご主人と大学の畜産科出の娘さん、民恵さんがモモの面倒を一切見ていたのである。そういえば、モモが道端で落ち着かない表情で待っている姿をよく見かけたことがあった。それは奥様の付き添いで病院から帰るご主人を待っていたのだということを、他界した奥様の告別式後に知った。
「モモは亡き家内の身代わりです」。ご主人のお言葉どおり、モモは榎本家の一員として迎えられ、今はいつでも外に出られる2階の一室がモモの専用部屋として与えられ、悠々自適、優雅に暮らしている。
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