編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
   編集:岩田忠利       NO.209 2014.9.10  掲載 

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     横浜市営地下鉄・新横浜駅

             工事現場レポ


   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”


   掲載記事:昭和58年7月1日発行本誌No.17 号名「杏」

   
写真・文:出口道和(元住吉)  取材:西野裕久(学生 奥沢)


  人目にふれる機会は少ないが、今、新横浜周辺は地下でも一つの大きなプロジェクトが完成へ向かって着々と歩みを進めています。
 今回は「トンネルの向こうに未来が見える」地下鉄工事現場からのレポートです。



    21世紀に続くタイムトンネル




中央の幹線道路の下に地下鉄の新駅がある

奈良建設ビル屋上から新横浜駅を望む


    9分どうり完成の地下現場


ヘルメットに身をかため地上の工事現場から足場をつたわって地下にもぐると、地表下13メートル、地下1階の広々としたコンコースにたどりつく。

 さらに地下2階へおりると、そこがプラットホームだ。打ちっぱなしのコンクリート壁で固められた地下鉄新横浜駅が道路下に掘り拡げられ、ほぼ9分どうり出来上がりつつある。

 地下の駅舎からさらに奥に進むと、直径7、8メートルもある太いチューブのようなトンネルが2本、蛍光燈に照らされて大きくカーブを描きながら続く。ほぼ完成に近づいたせいか、取材前にいだいていた資料による、トンネル内は暗くて湿っぽくて換気が悪いというイメージとはちがい、大変快適である。掘削を終えセグメントで覆われた、えんえんと続く曲面の中に入り込むと、まるでタイムトンネルの中に吸い込まれたよう。岸根公園駅側からとの合流地点まで800メートルほど進み、引き返した。



開通すれば横浜〜新横浜間が14分で結ばれる



地下2階の新横浜駅プラットホーム




新横浜駅から800b、岸根公園駅寄り地点。ちょうど岸根中学校の下あたり




    昭和60年4月の開通めざす男たち


 トンネル工事は男の世界、みんな一つの目的に向かって黙々と働いていた。土木屋は意外と純情、女性がいないのが悩みとか……。

 横浜市が建設する地下鉄3号線・横浜〜新横浜間7・1キロメートルは昭和55年1月の着工以来3年余り、60年4月の開業めざして、今、最後の仕上げの土木工事が急ピッチである。

 近い将来、30万都市「港北ニュータウン」の本格的入居がはじまる。そして地下鉄3号線は新横浜からさらに北へのびる予定である。われわれが今日歩いたこのトンネルの中を電車が走る日も、もう間近だ。

 いまはまだ、空地の雑草が風に吹かれ揺れているだけのこの地も、横浜の副都心として、東京へのターミナルとして、大きく発展を遂げる日が近い。どんな街並になるか、まだ定かではないが、緑豊かな街になってほしい。



開通めざし黙々と働く土木作業員









      女人禁制の工事現場に入って

                                               丸田起弥(学生 自由が丘)

  『女人禁制』という言葉、大昔の富士登山ではあるまいし、今どきお風呂屋さんにでも行かなければ聞かれない言葉と思っていました。

 今回、地下鉄工事現場のルポをおおせつかったが、工事は殆ど終わっている、というお話でした。そこで私は、ヒールのある靴で軽い気持ちで現場に行ったのです。ところが、ヘルメットを被った姿にヒールの靴、みっともないったらないッ!

 池田所長さんがおっしゃるには、めったに女性は現場には入れないそうです。女性の私が入れたのは、掘った土の上をコンクリート打ちをしてしまった後なのでよかったそうです。というのも、昔から「土は女性である」と考えられ、女性の存在を許さず、女性が入ってくると災害や事故が起こると信じられているからなのです。
 それを聞いてから、軽い気持ちはどこへやら……。なんとか私も男の人らしく、と大股でドカドカと歩いて、ささやかな抵抗を。

 しかし先進技術を駆使したこの工事現場で、こういった迷信が真剣に守られている現実を眼の当たりにして、ひどくアンバランスな印象を受けました。この点、池田所長さんは「ツルハシ一本で穴を掘っていた昔を知っている人たちが、まだまだ残っているからでしょう。何十年後かには、きっと変わっているでしょうねえ」とおっしゃいます。



筆者は写真左。彼女が横浜市営地下鉄工事現場に入った最初の女性でしょう

 とくに感じたことは、一つに地下鉄が開通すれば誰も見ないはずのコンクリートの壁を、ひとつひとつ仕上げていく現場の人たちの姿です。

 『女人禁制』という古い世界と新しい技術との狭間(はざま)にあって、職人気質というものがしっかりと守られていること。そしてもう一つ。「いろいろとご苦労がおありでしょう」との私の質問に「一つのことをみんなでやらなければならないのですから……文句を言うヤツなんていません」という池田所長さんの言葉が印象的。

 中学校の運動会のような言葉が、誠実に、そして真剣に語られる。私はこれを聞き、心なごむ思いで、発展する新横浜を後にしました。
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