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編集:岩田忠利      NO.207 2014.9.09  掲載

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  川崎小向厩舎 探訪  お馬の特集


   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”


   掲載記事:昭和58年1月1日発行本誌No.14 号名「橙」
   
取材・文・写真 :阿部 正(旗の台)  イラスト:中島雅子(学生 田園調布)



     小向厩舎(こむかいきゅうしゃ)ってどこにあるの?


 「牛に引かれて善光寺参り」。「馬に魅かれて競馬場巡り」とやってきた、ここは川崎競馬場の小向厩舎。

 小向は、川崎市幸区小向仲野町。第二京浜国道(国道一号線)を東京の方向から横浜方面へ向かい、多摩川大橋を渡り切り、多摩川に沿って少し下流に下った所にある。

 編集室から車で15分弱。広さは後楽園球場の約4倍ほど、400頭の競走馬を管理している場所だ。



トレーニング馬場  ここをお馬が走る(ダートコース)



      厩舎って一体ナニなの?


 
一口でいえば、馬の世話や管理をする所。馬とは、競馬場で多くの人の期待と歓声を受けてゴールまで走る馬、競走馬のことである。
 競走馬には、一般にも知られているサラブレッドのほかに、アラブという種類の馬もいる。それら競走馬の調教(馬に走り方を教えるトレーニング)や健康管理、発育状態などを総合的に取り扱っているのが厩舎。いうならば競走馬の団地。

 厩舎で馬の世話をする人たちを別名「厩務員(きゅうむいん」と呼んでいるが、このほかに、馬の調教をする人「調教師・調教助手」、馬に乗る「騎手・見習騎手」、馬の病気や怪我を手当する「獣医」などがいる。また、競馬開催の事務的な作業や書類を作成したりする事務の人たち。面白いのは、事務系の職員は地方公務員。直接馬に携わっている人たちは民間という点。

 馬の世界というと男性だけの社会を想像しがちだが、女性の厩務員も騎手もいる。ただ絶対数が少いので目立たないだけ。川崎には女性の厩務貝3名、騎手1名、そして調教助手が1名。東関東の4つの競馬場に女性騎手は3名いるそうだが、その3名ともものすご〜い美人とか。

 ほかにその家族の人たち。数多くの人たちが競馬というのを表から裏から支えている。厩舎を忘れていては、競馬そのものを語ることはできないのだ。



厩舎敷地内での馬の引き運動。お尻が魅力的(?)



      馬にも個性ってあるの?


 
素人が見ると、皆同じに見える馬の顔も、実は一頭一頭まるで違う。また性格やクセも人と同じこと。顔はよく見ると、眼や鼻、口、顎などの違いがわかるし、なんといっても馬の特徴ある鼻筋にかけてあるあの白い模様。これが馬ごとに違うのがしばらく見ているうちにわかってくる。

 ここまではわれわれ凡人もどうにか区別のつくところ。が、性格やクセとなるとそうはいかない。馬群を嫌がる馬、土をかぶることを嫌う馬、雨だと喜ぶ馬、ともかく先に行きたがる馬、右回りだと走る馬、芝生では走らない馬、障害物競走の得意な馬……。競走馬なのに鞍を付けるのをとても嫌がる馬などもいるとか。まあ、いろんな馬がいるもの。



競走馬なのに鞍が嫌いな馬も・・・




       厩舎で働く人たちの思いって?


 
この厩舎で働く300人余りの人たちの共通点は、とにかく馬が好きだということ。

 厩舎の中での仕事というのは、朝は早いし、力はいるし、馬のご機嫌はとらなければいけないしと、はたで見ているよりもずっと重く厳しいものばかり。それを別に苦もなくやりこなしてしまうというのは、馬が好きだからこそ。

 馬が病気のときに、馬につきっきりで3日徹夜したなどというのは、それこそザラにある話。家族より馬が大事という人たちがたくさんいる。

 馬は話すことができない。話せないけれども、いろいろな行動を通じて、意志を伝えてきているとのこと。ある場合には、病気の前兆と思われるような態度をとったり、自分にとって味方の人間なのか敵の人間なのかを見抜いたり、喜びを表現したり、人と同じように感情を表現するという。

 馬と生活をともにするというよりも、馬の生活の方に合わせるといった感じでないと、馬と友だちづきあいはできないそう。そうこうしているうち馬と馴染み合ってくるのが何よりも楽しく、その馬が大レースに勝ったときなどはわが子のこと以上に嬉しいとか。その気持ちわかるなあ〜!

 ”競馬は血統のスポーツ″とかよく言われる。しかし馬の世話をしている人たちに言わせると、それも大事だけれども、それより育成環境の方が重要とのこと。これは子供を育てるのと全く同じ。馬も子供も育て方は一つ。愛情をもってふれあっていくことが大切なのだ。
 競馬場に行くと、たまに心ないファンに出逢う。彼らに厩舎の人たちの気持ちがわかるだろうか。



馬が病気のときは、看病で馬小屋で一緒に寝たり・・・









馬の足に蹄鉄を打ってあげる厩務員



       取材で印象に残ったこと


  今までは、ただ馬券の勝ち負けだけで競馬を観ていたが、これからはもっと別な観点から見られそう。

 芝居や演劇、スポーツなどもそうだが、観客側はただ観ているだけ。でもそれを演じている側は、相当な努力を積んでいる。

 厩務員の方がこんなことを言われた。「動物を介して人を見る」。この一言、実に味わいのある豊かな言葉だと思うのだが、どうだろう。

 蛇足。小向厩舎は一般人立ち入り禁止。今回は、川崎市市長室の武田秘書課長の紹介があったため、取材ができたしだい。だから、散歩がてら見に行ってもダメ。これは競馬の不正防止の意味と馬の健康管理の上から。



 










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