編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
   編集:岩田忠利       NO.200 2014.9.05 掲載

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 日本文化の美しさを求めて! 

                 
日本民芸館    


   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”


   掲載記事:昭和56年9月1日発行本誌No.7 号名「萩」

   
取材・文 :佐藤保子(主婦 大倉山)  写真:三戸田英文(元住吉)


 民衆の中に埋もれて生きつづけた真実の美とは、何であろうか。現代のこの煩雑な生活の中で私たちが失ってしまった精神的なよりどころを求め、美の原点を見つめ直そうとその質においても日本で1、2を争う日本民芸館を訪れてみた。


日本民芸館入り口

 井の頭線で渋谷から2つ目、駒場東大前駅で下車。線路沿いに西へ道を辿ると早くも高級住宅街である。蔦のからまるしゃれた洋館やテニスコートを左右に眺めながら歩くこと5、6分。左手に古びた長屋門、右手に大谷石の塀で囲まれた和風の建物が現われた。辺りの静かなたたずまいによく調和のとれた日本民芸館≠ナある。


    柳 宗悦に見出された民衆工芸


 この日本民芸館の創立者である柳宗悦(18891961年)は白樺派(大正時代の日本近代文学の一派)の中心人物となり美術評論家として活躍したが、工芸品−家具や陶芸に非常に興味を持ちこれに感動した。特に世間から見捨てられた品々にこの上ない美しさを発見した。

 そこで宗悦は今まで飾るために作られたきらびやかなものに虚しさを感じ、日本各地にほこりに埋もれたまま眠る工芸品を蒐集する旅を始めたのである。

 彼は、見出された数々の品物にある共通点――美しいものは民衆の生活に密着した実用品であることを発見した。そして、苦節の後、昭和11年の秋ここ駒場の地に純日本式の民芸館をオープンした。

 江戸時代から幕末にかけて庶民文化華やかなりし頃、盛んにつくられた工芸品を中心に現代のものまで、陶磁器、織物、染物、木・金工品など、1万2千点の蔵品は毎年4、5回、5年の周期で陳列替えされている。



柳 宗悦












機(はた)織り






沖縄紅型(びんがた)染めの打掛け










       自然そのままの沖縄の美


 ご案内人は、当館学芸員・尾形彰三さん。内部は陳列品の美しさを損わないよう民芸調の椅子やテーブルを配し、障子を通した光線は無銘の、しかも何度も袖を通したであろう素朴なカスリの着物をにぶく照す。

 沖縄のギラギラ光る太陽のもとで咲き乱れる草花を描き出した紅(びん)型染の祭用の打掛(うちかけ)。紺青の海の色そのままの藍染めの祝いものを包んだであろう畳2枚ほどの風呂敷……。

 柳 宗悦は旅行の先々で、手仕事を捨て機械に走ろうとしていた人びとに「貴方たちの手仕事こそ一番素晴しいものだ」と励ました。50年前すでに亡んでいたものを復活させたという点で文化的に非常に意義がある。

 小規模ながら美術館施設の中では日本一と言っても恥しくない……と熱っぽく語る尾久さんのひたいに流れる汗が民衆工芸品にかける情熱そのものを物語っているようだった。



紅型染めに見入る筆者


落ち着いた雰囲気の室内










        日本民芸館 案内

 開 館:午前10時〜午後5

 休館日:月確日、年末年始、臨時休館(陳列替え時)

 現在の入館料:大 人 1100円(900円)

高大生600円(500円)

             小中生200円(150円)

)は20 以上の団体割引

 910月の催し:しぼり染め

 所在:目黒区駒場433

 電話:03-3467-4527 



       旧前田侯爵邸も今は公園に


 民芸館を後に、地つづきにある目黒区立駒場公園に足を運んだ。前田家の邸(やしき)跡4万平方メートルの広大な敷地内は、杉やケヤキなどの巨木が夏の太陽をさえぎって、そこここに緑陰をつくってくれる。

 戦後占領軍に接収されていた豪壮な洋館は現在都立文学博物館となり、明治以降の文学者の自筆の原稿や文芸作品の初版本などを、テーマを決めて展示している。
 (※ 同洋館は1967年(昭和42年)に都立近代文学博物館として開館されましたが、当誌面掲載後の2002年(平成14年)に閉館されました)。


 洋館と並んで和館は、純日本式の庭園をもつ書院造りの木造館である。無料休憩所として開校された広い和室では、座布団を枕に昼寝を楽しんだり、松の梢を渡る涼風にしばしの心の安らぎを覚えたり、まったく自由である。

 コロンブスとして訪れる先々で古いものを熱心に見入る若者たちにたくさん出会った。暑い昼下り、独り廊下に座り日本庭園をじっと眺めている高校生を見かけ、感心するより無気味に感じた。

 だが、昨今現代の民芸品であるわが編集室を訪れる若者の多いことを考え合わせると、古き良きものを求めるのは、年齢に無関係なことを再認識した取材だった。



加賀百万石(現石川県)の当主、前田利為伯爵邸



写真左の洋館は4万平米の屋敷とともに、そっくり駒場公園に


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