大井埋立地に一歩踏み込むと…
平和島から橋を渡り、大井の埋立地に足を踏み込む。いならぶ倉庫、ものすごいいきおいで走り抜ける大型車、この奥に、自然の地があることを想像するのは難しかった。
想像するには、あまりにも乾いた景色、乾いた空気であった。標識に従って歩いて行くと、相変わらず車の行き交う道路に隣接して野鳥公園があった。
海がこのアスファルトの下に生きづいていたことも、野鳥がこの向こうで現に今、生きていることも、私には想像もできなかった。
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日本野鳥の会の方々とともに
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別世界に迷い込んだような自然の地
そこには確かに自然がよみがえっていた。はるかに広がる草野原、水をたたえた池。風さえも今までとは違うようだ。どこからともなく聞こえてくる野鳥の声。観察小屋の窓から池の方を見回す。
慣れない私に、この公園を管理している「日本野鳥の会」の大塚さんが、望遠鏡を鳥に合わせてくださった。円い視界の中でさえも、最初はなかなか見つからなかった。周りの石と同じような色の鳥が5羽かたまっているのを発見し、歓声をあげた。一夜づけで野鳥の本を勉強した私には、名前もわからない。
大塚さんが「キアシシギ」だと教えてくださったが、名前なんてわからなくても感激だった。
ここは、水鳥の類が多く、一年を通すと190種くらいの野鳥が訪れる、都内でも一番数の多い野鳥の島。
毎月第1日曜日に探鳥会を行っている。朝から歩き出し、池のそばでお弁当を食べてゆっくり自然を楽しんでいる。ザリガニのとれる水たまりや、トンボやバッタのいる草むらを実際に歩くこともできる。耳を澄まして目をこらして、「あっ この鳴き声は?」「あそこあそこ、ほら、ヨシの穂先にとまってる」‥…。
子どもたちは夢中になっている。鳥好きはもちろん、家族連れでも、私のような素人でも十分に楽しめる。
モズが、冬の食糧のために秋から冬にかけてとらえたカエルなどを、木の枝の先や鉄条網にさしておく「モズのはやにえ」なども、ここでよく見られるという。
鳥と人間の場所の取り合い
野鳥が生きていくうえで、自然が大切であることはいうまでもない。人間が住むためにだって環境は大事だ、という大塚さん。自然を、鳥はもちろん人間も大切にすることが望ましい。
しかし、ここでは人間が自然を再び壊そうとしている。自然を愛する人たちによって、この地に3年前、都の施設として野鳥公園が造られたものの、その面積はわずか3ヘクタール。約68ヘクタールの公園外の自然の地は、コンクリートの地になってしまうかもしれないという現状。
草原を歩きながら見たおそろしい光景は、草木の茂る地面からつき出た鉄の棒であった。鉄筋の残がいやゴミ、残土によって作られた埋立地ならではの象徴ともいえる景観。
やっとよみがえったこの自然の地が、鉄の木の林立する地に変わってしまう。
そうなってしまったら、わずか3ヘクタールの野鳥公園で、鳥たちはどうやって生きていくのだろうか。決してなくしてしまってはいけない。自然を、そして、そこに生きづく生物たちを。
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カイツブリの親子 |
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コサギ |
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危機にさらされる大井野鳥公園
日本野鳥の会指導部 大塚 豊さん
大井埋立地が誕生したのはおよそ15年程前のことですが、そこがたまたま放置されている間に自然がよみがえり、都心のオアシスとなりました。
現在、埋立地のごく一角にある大井野鳥公園も、その周辺の豊かな自然によって支えられているのです。しかし、その周辺地域には都の卸売市場建設の計画があり、もしもこれが完成すると、大井野鳥公園は孤立し、野鳥たちも棲めなくなってしまいます。
私たちは、この貴重な自然をそっくり残して自然公園とするように要望しています。
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