編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
   編集:岩田忠利     NO.197 2014.9.04 掲載

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 故郷がこんな近くにある! 

     川崎市立「日本民家園」

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:昭和56年3月1日発行本誌No.4 号名「椿」
   
取材・文 :久保島(現・加賀)紀子 (日吉)  

  全国の古い民家を保存展示している川崎市立「日本民家園」を訪ねる。川崎市生田にある生田緑地自然公園の中に、約1万坪の土地を使って現在は17の古民家が点在。昭和51年に、屋外博物館として登録された。

  生田緑地分園は民家園の数倍の広さ。四季の移り変わりに触れながらの民家の見学はためになり、また楽しい。


  温故知新、古るきを温ねて新しきを知ろう!


 ここはまったくの別世界、起伏のある自然美そのもの。さまざまな木々や、道端にひっそりとある、道祖神や馬頭観音なども見のがせない。

 この民家園が開園した昭和42年ころは、高度経済成長のまっただ中、古民家がどんどん壊されていく時代だった。確かに昔の古い家は、現代の生活用式には合わない。便利なものへと改良されていくことを、あえて否定しようとは思わない。けれど、新しいものが作られる背景には古いものがあったということを忘れないでほしいと思う。

 ともすれば、新しいもの新しいものと変わっていく急成長の中で、大切なものが忘れ去られてしまう。私たちの祖先の厳しい生活、風習、喜び、それらの中から生まれた知恵。これらを捨て去ってしまっていいのだろうか……。



約150年前の「うまやど」



地方色がうかがえる板葺き石置きの屋根


   祖先の知恵と技術の素晴らしさ


 古民家を一つ一つ見ていくと、感心させられることばかり。まず自然をうまく利用しているということ。

 曲がりくねった天然の木を利用して作った梁。これは力学的な効果だけでなく、美的効果も高めている。丸太を細工して作った雨樋(あまどい)。別棟作りの建物の棟と棟の接続部に、太い丸太を半分にしてくり抜いたものを渡して大きな雨樋が作られていた。雨の日に、屋根から落ちる雨水がその雨樋を伝わる状景を見てみたい。また幾本もの細い竹をつなぎ合わせたスノコを床に張っている家もある。通気性をよくするためだろう。このように自然の姿、素材をうまく使ったものが生活の場にある。今、私たちの身の回りには、何から作られたのかわからない物がたくさんあるのではな
いか。

 また各家々は、その地方の自然現象、天候に合わせていろいろな工夫がされている。

 有名な合掌造りは、雪の重みに耐えられるように屋根は急傾斜。それに比べ寒さは厳しくても降雪量の少ない地方の家は、雪に耐える必要もない。だから柱を細くしてある。全体的に、温暖な地方の家は風通し良く明るいが、寒い地方の家は窓も小さく、壁に囲まれ、閉鎖的な家になっていた。



越中五箇山の合掌造り



竹のスノコ張りの床




  飛騨白川郷の合掌造りの家の囲炉裏が休憩所に




   さまざまな農機具や生活の道具も…


 各家には、当時の農機具や生活の道具が展示してある。取材の時期は12月だったので、地方の年末の慣わしの道具も展示してあった。人々の生活のようすもうかがえる。

 農道具の前で私は、一人ポツンと「懐しいなあ」とつぶやいているおじいさんを見つけた。そばに行くと、
 「これは蚕(かいこ)の繭を置くワラを作る機械で、わたしらはこれを実際に使っていたんだ」
 と教えてくれた。東京郊外からやってきたというおじいさん。若い頃はそれらを使って農業をしていたという。「今
は使い捨ての時代で、すべて楽になってきた」とひとりごとのように言っていた。

 石臼の前で『うすひき歌』を教えてもらった。

  ♪おまえちゃんとなればな〜い どこまてもよ〜〜

  一つ一つの労働に歌があって、それを歌いながら仕事をしたという。オートメ化の今とちがって、確かに仕事が辛かったのかもしれない。辛さを歌にしてまぎらわしたのか、仕事が楽しみであり、それは喜びの歌であったのか……。

 最後に、「81歳のおじいちゃんと握手をしよう」とさし出してくれたおじいさんの手のぬくもりは、民家園を見終わった後の私の心のようだった。



外国人の見学者も多い



生田緑地自然公園内には懐かしい蒸気機関車D51もある





  川崎市立「日本民家園」案内

  場所:川崎市多摩区生田9300

  交通:小田急線「向ヶ丘遊園駅」南口から徒歩15

  時間:9時半〜1630分(入園16時まで)

 現料金:小人、学生…300円 中学生以下…無料

    大人(20歳以上)…500

    65歳以上…300円(川崎市在住無料)

    団体割引あり

  休み: 毎週月曜日

  電話: 0449222181

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