下るほど自然が……
井田あたりでは今も微かながら水田も見られ、林立する送電塔との対比が奇妙な面白さをかもしだしている。
支流の江川が合流する。川幅の割に浅い水にはゴミが浮いていたり、自転車や古タイヤといった粗大ゴミが沈んでいたり……。直線的な護岸は単調な流れを維持し、日吉・木月で東横線をアンダークロス。
川は両町の境界線であるだけでなく、同時に横浜(港北区)・川崎(中原区)市境でもある。続いてクロスする綱島街道の橋上に立ち、「どの辺が境界線かな?」などと考えてみたが、我ながらあまりに他愛ない。そういえば多摩川の丸子橋でも同じことをしたっけ……。
『とうよこ沿線』編集室も、この街道筋に。橋から眺め、先に進もう。
南岸には慶大工学部の森。北岸には建てこんではいるが静かな住宅街。時折の新幹線の通過が静粛を破る。
日吉・矢上の町境に至ると源流以来の単調な流れが一変、南に直角に折れ、同時に渋川が合流する。流れは深く、狭く、蛇行し、堤内には土手が出現する。河口に近くなるほど自然が多く見られるというのも何だか妙だが、沿岸にはイチジクやネギなどの畑もあるし、犬を連れて土手を歩いているおばさんの影もけっこう絵になっている。
ところどころの排水口から白い泡を伴い汚水が流入するさまには幻滅させられるが、ひどく鈍い色彩を放つ流れの中にも鯉が泳ぐのが見える。決して水質が良いというわけでなく、もう目前の鶴見川から遡上したのだろう。
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土手が出現。雑草が茂る(矢上・日吉)
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緩やかに下ってゆく(南加瀬・日吉)
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いつか海へ……
歩足を緩め、枯草を踏んでゆく。どこにいたのか、雀の群れが飛びだして驚かされた。
そうこうするうちに矢上川の終点は、いともあっけなく訪れた。水は緩やかに鶴見川に流れこみ、遠く東京湾まで下ってゆくだろう。
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鶴見川に注ぎ、矢上川の終着地
(川崎市幸区南加瀬、横浜市港北区日吉・鶴見区駒岡の市・区境)
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往時の矢上川アルバム
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昭和25年の夏、現在の矢上川・西ケア橋
フンドシ姿、澄んだ水、波高く速く流れる川面…目に焼きついている少年時代の矢上川の光景です。
提供:森昇さん(高津区久末)
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作家・山口瞳のデビュー作「江分利満氏の優雅な生活」に登場の井田堤の桜
昭和32年4月、橋本禎二(井田中ノ町)撮影
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昭和24年4月、お花見する日吉の女の子
撮影:佐相政雄(日吉本町)
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