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編集支援:阿部匡宏 / ロゴ:配野美矢子 |
編集:岩田忠利 NO.147 2014.8.05 掲載 |
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谷沢川(等々力渓谷)編
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沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』の好評連載“復刻版”
掲載記事:昭和59年10月1日発行本誌No.24 号名「椎」
執筆・撮影 :一色隆徳(祐天寺・大学生) 絵:中島雅子(田園調布・大学生)
取材:数野慶久(奥沢・中学生
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等々力渓谷……正しくは谷沢川。世田谷区内を流れる都市河川だが、等々力駅付近を境に自然あふれる都区内唯一の渓谷に姿を変える。
初秋の一日、のんびりと散策してみるのも、また一興……。
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まず画像の上でクリックしイラストを拡大して、谷沢川の全体像を把握してください。
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“溝”としての都市河川
谷沢川。かつては世田谷区のほぼ中央、農大あたりで品川用水(三鷹の玉川上水から学芸大学駅付近を経て戸越公園に流れていた)の落水を受け、水源としていた。今では上用賀あたりからフタのされた排水溝が見られ、ここを一応の始点と見なすべきだろう。
上用賀の地主、当主・柳田国雄氏に昔日を語っていただく。
「昔は、あたり一面が田畑でね、谷沢川もなんてことない小川だったけど、子供時分には畑仕事の手伝いの合い間にフナやザリガニを捕って遊んだもんだよ。スッポンなんかもいたっけね」
いかにものどかな風景が変わっていったのは戦中戦後のこと。都市化の波は田畑を呑み込み、宅地に変えた。
今や家庭排水のための溝″--住宅づたいに何度も折れ、ようやく川らしい水のある姿を見せる。しばらくの間、東名高速の高架下を流れるが、都会を象徴する高架橋とコンクリートで固められた河川の組み合わせには、どこか乾いた感じの調和がある。
国道246号を越えれば流れは再び住宅街に……。直線的で単調な空虚感を両岸の桜並木が和らげている。桜の次には柳。涼しい影が気を和ませてくれる。いつだって緑は心に優しい。
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東名高速道下をゆく(用賀)
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住宅街。単調な流れ(中町)
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やがて流れは蛇行しはじめ、それにつれて緑も濃くなる。川底が深くなり大井町線と交差--にわかに自然の彩りが強まると、谷沢川は都市河川から渓谷へと姿を変える……。
ここに渓谷の自然破壊を嘆きつつも環境浄化を訴える人がいる。「等々力渓谷保存会」の大平喜重氏である。
大平家も等々力の代々の地主だが、戦前に作られた保存会を6年前に再建し、下水や樹木保護に取り組んでいる。
「昔は湧水も豊富で水も深くて泳げるほどだったね。澄んでいて冷たかった。ほとんど森林だった等々力が変わったのは大井町線が開通してから――」
と大平氏。今の人は無責任だという。
川を汚し放題にして平気でいる――と。自分たちで守らなければ自然はいともたやすく滅んでしまうのに。
さて、ここでパートナー交代、社会派・K君からN嬢に。珍しく美女を伴う取材だから、ちょっと浮かれて……。
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蛇行して深まる川床(等々力)
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大井町線をアンダークロス
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等々力は緑のオアシス
等々力は緑に溢れていた。ゴルフ橋の螺旋階段を降りてゆくと、そこはまさに別世界。空気が変わるのがわかる。
深い谷底に立てば梢が高い。頭上の緑葉ごしに射しこむ陽は明るく、いかにもさわやかだ。
川沿いに、ちょっと尾瀬を思わせるような板敷きの道を下ってゆく。
さらさらと瀬音--都市河川ゆえに水の汚きは否めないが、悪臭が鼻につくというほどでもない。
不思議な静けさ。聞こえてくるのは葉のざわめきと野鳥のさえずり。車や人ごみに代表される都会の喧騒とは隔絶された世界がここにはある。
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緑深き等々力渓谷
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ゴルフ橋下流。梢が高い
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橋を渡り、土を踏む。そこかしこから湧水――幾筋もの流れを作る。
静けさを破るのは子供の明るい声。すれ違った近所の子の左手には網が、右手にはバケツが握られている。覗きこむと、ザリガニがいっぱい。自然はまだ健在なんだなァ、と驚くと同時にこうして遊ぶ子供たちを見ていると嬉しくなった。
十年ひと昔というが、小学生時分に郊外から都区内に越してきた筆者は、先ず都会っ子の遊び方に驚いたものだった。およそ自然と戯れる、といった遊びは見られなかったからだ。
渓谷は子供たちの格好の遊び場でもあるが、道端に佇んで見ていると、実に様々な人々がいるのに気づく。ハイカー、若いカップル、買い物帰りの主婦、散歩の老人…‥・それぞれが自然の持つ何かに惹かれてやってくる。等々力渓谷は、いわば「夢の扉」なのだ。
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緑に包まれた散歩道
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環八の下。場違いな車の騒音
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ひと休みは不動の滝で
自分なりの夢をめぐらせながら、環八の橋をくぐる。車の音が聞こえ、ふと現実に引き戻されるが、数歩進めば辺りは再び静けさに包まれる。
川に沿って緩やかにカーブすると、少し広い場所にでた。茶店を見つけて一休み。縁の下、氷など食べながらN嬢に渓谷の印象など聞いてみる。
「緑がいっぱいで、とっても気分がいい。踏み入った瞬間、ヒンヤリとした空気に妙に懐かしさを覚えたの。今度は一人でぶらり歩き≠チていうのも悪くないわね」だって……。暗に嫌われたような気がしないでもないが、ともあれ彼女の印象は訪れる人々のそれを代表しているといえよう。 この辺り、等々力不動の境内でもあり、人工的なものが多い。茶店や植込み、然り。単に観光地的で俗なのではなく、自然とのマッチングがいい。ここでは人と自然が調和した風景が見られる。
湧水を用いた二条の滝--「不動の滝」に行者姿の老人が身を打たせている。かつては激しく落ちていたのだろう。その「轟き」が「等々力」として地名になったという)
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橋を渡れば歴史の小径(横穴古墳下)
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不動の滝の下。ひと休みに最適
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終着はいつも侘しい
流れてゆく一葉のモミジを追うように歩く。N嬢は時々身を乗りだして流れを覗きこんでは、何やら歓声をあげている。きっと彼女なりの発見″を楽しんでいるのだろう。
急に辺りは開け、川は住宅地を流れる。六郷用水(NO.142「沿線の河川」参照)をアンダークロス、その水を合流させ、ほどなく多摩川へ注いでいる。谷沢川の終点……。ひときわ大きな空が川面に映る。
川はいい。しばしの間、ぼんやりと眺めていた。やがて陽がかげり、まだ8月だというのに、なぜか夏が終わってしまったかのような気がした。
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再び住宅街に入る(野毛・玉堤)
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多摩川に注ぐ。流れの終着点
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