定期戦の勝利というものが、こんなに夢のようなものであるとは、2年生の時には考えもしなかった。
やがて彼女たちは、われわれを一人ずつ、彼女らの個室に招じ入れてくれた。広さは6畳くらいであったが、床はペルシャ絨毯で、大きな三面鏡台、電気冷蔵庫(当時日本では珍しかった)もあり、横文字のビンからスプーンですくって、コーヒーを入れてくれた。私は浦島太郎になり、乙姫様の前にいるような気がした。コーヒーを飲みながら彼女はニッコリ笑った。その美しいこと、これでは、世界の港を股にかけている外国船の高級船員も、彼女にはイチコロだと思った。彼女の出身は千葉県だといった。全関東から超一級の美女を集めてくる経営者も大変だと思ったりした。
ここの女は、勤務時間外は自由で、神宮へ野球見物に行ったり、銀ブラをしたり、洋画を見にどこまでも行ったりすると、朗らかに話していたが、ご令嬢のそれとは違う妖しいなまめかしさは隠せなかった。
10時を過ぎると、「そろそろ客がくるから……」といって、部屋から出て、波打際から海に張り出した長い桟橋を歩いた。右にも左にも波が騒ぎ、見上げた空は、満天の星だった。
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