★画像はクリックし拡大してご覧ください。
「私が特別にゴルフを教えている、サカタ種苗の専務(現社長)が、種を入れた紙袋の自動封縅機を作ってほしいそうなので、サカタへ行ってみてください。よく話してありますから…」 さっそく反町駅で下車し、山を少し登り、サカタへ行った。新田氏の推薦が利いていたらしく、きわめて丁重であった。
有名な四国のヤマキ(カツオ節メーカー)の自動包装機をやったときには、一番重要な仕事は、いかに良い原料を安く仕入れるかということであった。そのため、仕入担当副社長は、一年中太平洋上の漁場と接触していて、いい漁があったときは、電光石火その場で契約しないと、同業他社に出し抜かれてしまう。悪いカツオを買えば社運が傾くという。
また、富山駅の名物である鱒寿司弁当の会社を指導したときには、その会社でいちばんの高給取りだという老人に会った。見たところ、東京の老人クラブによくいるような人であったが、この人の仕事は、明日何食分仕込むかという個数を決めるだけ。駅弁は、売れ残ればその分が赤字であり、足りなければみすみす儲けを失ってしまう。春夏秋冬、曜日、天候、その他あらゆる条件を考慮し、長年の勘と推測で、仕込む個数を前夜に決定する。
サカタの「種袋自動封鍼機」の試作ができると、現場に持ち込んで試験を始めたが、あまりうまく作動しなかった。
花の種類によって種子の大きさが違うし、袋に入れるときに一部に固まってしまったりして、ローラによって前進する袋がいろいろ方向を変えてしまう。 糊付けした蓋の部分がなかなか平行にゆかず、少しでも斜めになると、店頭での商品価値がガタ落ちになってしまう。
結局、袋を送るのにローラではなく、平ゴムベルトに改良することになった。こうすれば、中身の種に多少の凸凹があっても、その影響を最少限にくい止めることができる。機械本体はサカタに置いて、改良部品の設計製作に入った。 その後まもなく、反町の事務所と売店、倉庫と工場は全焼してしまった。改良どころではなくなり、この件は未完に終わってしまった。
サカタが会員に配布している極彩色の花の本がある。編集員は一年中これにたずさわり、社の全力を挙げていることを見聞することができた。
企業というものは大変なもので、相場師のような才能、研究開発の才、営業蓄財の才、さらに出版PRの才と、全天候形の才能がなければならない。
しかも、4時間以上の睡眠をとる人はめったにいないし、これだけ心身を酷使しても、90歳以上の長寿を果たさなければ、まず2代とは続かないという。きびしい一年草であるような気がしてならない。