編集支援:阿部匡宏
        編集:岩田忠利     NO.112 2014.7.15 掲載      

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歴史 地名H
 
ちょっと気になる交差点



   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』の好評連載“復刻版”

   
掲載記事:「地名 その22 昭和60年12月1日発行本誌No.31 号名「樅」
   執筆:桑原芳哉
(大倉山・学生) 絵:石橋富士子(横浜・イラストレーター) 地図:伊奈利夫(桜木町

 交差点を目の前にして、赤信号にひっかかる。「ちえっJなんて思わないで、そんな時、ちょっと交差点の名前に目を向けてください。

 ちょっとした交差点なら、交差点の名前を書いた板が、信号機についているはず。この交差点の名前、いろいろ拾ってみると興味深いものもいくつか。
 そんな“ちょっと気になる交差点”をさがしてみました。
 あ、青になりましたよ。


  菜の花が咲き乱れたか・・・

  油面 (あぶらめん) (東京都目黒区)

  目黒通り、目黒消防署近くの交差点が「油面」。小学校や公園の名にも残るこの地名、なかなかほかには見られない。似たような地名としては「油田(あぶらでん)」、「油井(あぶらい)」などがあり、「寺社に対して燈明の油料を貢納する田地」であるとされている。

 そこで、目黒の歴史をさかのぼると、このあたりでは有名な「タケノコ」とともに「アブラナ」も早くから相当栽培されていたことがわかる。この「アブラナ」から、灯油の原料、つまり菜種油をとっていたのであろう。

 さて、「面」という字である。「メン」という地名語にはいろいろな意味があるが、その一つに「中世の荘園で、年貢を免除された田」がある。つまり免除の「免」である。おそらく「油面」も、この地で産した油を納める代わりに、年貢を免除きれていた地、という意味ではないかと考えられる。

 今、このあたりに菜の花が咲くのかどうかわからないが、その昔は、鮮やかな黄色の花が咲き乱れたのであろう。今一度、見てみたいものである。

  今は区境のそば

  真中 (まなか) (東京都世田谷区)

  「真申」と書いて「まなか」。世田谷区内の国道246号線を走ることの多い方には、おなじみの交差点と思う。ここから自由通りが南に伸び、自由が丘、奥沢から雪谷に抜ける。
   この地、現在は上馬三丁目、四丁目と駒沢一丁目、二丁目との境に位置するが、かつては駒沢町上馬引沢にある小字であった。

  「真中」という地名の起こりについては、はっきりとはわからない。文字通り、村の「真ん中」であったのかもしれない。あるいは、ほかに意味を持つのかもしれない。しかし、今の国道246号線(玉川通り)は、古くから大山街道として、行き交う人も多かった道である。したがって、村の中心がこの街道筋にあったことは十分考えられる。あるいは、現在でもそうであるが、かつては今以上の交通の要衝だったのかもしれない。

 今は、目黒区との区境がすぐそばだが、真申の地では、今でも車や人の流れは、絶え間ない。


  「祇園町」と関係あり?

  木月天王森 (きづきてんのうもり) (川崎市中原区)

  

  「天王森」とは大そうな名だが、実体はさほど大きなものではない。むしろ小さな交差点である。県道鶴見溝ノ口線、木月陸橋の東、東急の元住吉検車区のそばにあるこの交差点、当編集室からもほど近い。
 さて、「天王森」という地名だが、別に陛下にご関係あそばされるわけではない。木月の地にかつてあった「天王社」に由来するものである。「天王杜」に由来する地名としては、「木月祇園町」をNO.103でとりあげた。

この二つの地名の元となった「天王社」が同じものであるかどうかは定かでない。やや離れてはいるが同じ「木月」の地、関係があるのかもしれない。
 ともあれ、ここを通る時はくれぐれも事故のないように。「天王」様の目の前で、信号無視など、いけませんよ。

  悲恋の伝説はないのかな・・・

  越路 (こしじ) (川崎市幸区)

 
木月天王森を通る県道鶴見溝ノ口線と、県道大田神奈川線とがY字形に分かれる地が「越路」。現在は幸区南加瀬に位置し、「越路」と書かれるが、かつては「地」とも書かれたようである。
 『新編武蔵風土記稿』南加瀬村の項に小名として見られるのが地」。

 「」は新字体に直せば「恋」。「恋地」とは、思わせぶりな地名である。

 北陸は石川県の能登半島には、「恋路海岸」があり、ロマンチックな名に魅かれて訪れる人も多いという。そしてここには、乙女の悲恋物語が伝えられている。川崎の「地」改め「越路」には、似たような話は伝えられていないのだろうか。
 地名の起こりを考えると、「越路」も「恋路」も「地」も、乙女の悲恋物語とは関係ないようである。「越路」ならば文字通り「越える路」、つまり山越えや川越えの地をさし、さらには「国境」をさす場合もあるという。石川県の「恋路」は、海岸に突き出た山を越える地、と考えられている。
 もう一つ、湿地を意味する「小泥(こひじ)」から変化した場合もある。山や大きな川もない川崎の「越路」の場合は、こちらの意味かもしれない。
 「戀」という字は「いと(糸)しいと(糸)しと言う心」と書くのだそうだ。住宅と工場ばかりの川崎の地図には、「戀」も「恋」も見つけられない。


                    ☆★


 

交差点の名に、このような今は消えてしまった地名がつけられている例は多いが、「区役所前」など、「〇〇前」という名の交差点も数多い。
 そのきわめつけが、世田谷区にある。玉川警察署を囲むようにある3つの交差点が、「玉川署前」「玉川署脇」「玉川署裏」。ここまでやれば、少しほ違反も減るかもしれないが……。



    <主な参考文献、資料>
 『角川日本地名大辞典 13東京都、14神奈川県』
 『加賀・能登の伝説』
 『新編武蔵風土記稿』 『地名の語源』
 『地名語源辞典』
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