ロゴ:配野美矢子/編集支援:阿部匡宏
編集:岩田忠利     NO.91 2014.7.08 掲載  

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樹木 駅名の由来① 生きている沿線の歴史 花は桜。
                                                
 
   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』の好評連載“復刻版”

   
掲載記事:「地名 その6 昭和58年月1日発行本誌No.15 号名「桜」
   執筆:桑原芳哉
(大倉山・学生) 絵:石橋富士子(横浜・イラストレーター) 地図:伊奈利夫(桜木町

 花と言えばやはり「桜」。日本の花を代表する「桜」の名は、広<地名にも用いられています。
 今回は号名にちなんでこの「地名∥生きている沿線の歴史∥」でも「桜」をとりあげてみました。
 前回が「富士」で今回が「桜」では、「特急列車シリーズか」なんて言われそうだけど、ともに「日本の象徴」。その名を沿線に見つけ出すのも、おもしろいと思いますよ!


 今はわずかに10本あまり・・・

  桜丘町(さくらがおかちょう)  (東京都渋谷区)

 桜丘の名は、昭和3年に当時の豊多摩郡渋谷町の大字名として生まれ、その後昭和7年、東京市渋谷区発足とともに町名となったものである。渋谷駅の南部の台地上に位置し、このあたりl帯に桜の木が多かったことから「桜丘町」と名づけられたという。

 いまの桜丘町は、三つの顔を持っている。一つは渋谷駅付近の飲食店街、二つめは国道246号線(玉川通り)と、その上を走る首都高速3号線沿いの、東急本社を代表とするオフィス街、そしてもう一つは閑静な住宅街としての顔である。

 ところで、町名の起こりともなった多くの桜の木、現在はどうなっているであろうか。手元に渋谷区建築公害部による『樹木の実態調査報告書―かな街づくりのためにー(昭和543月)』という資料がある。この資料の桜丘町の項を見ると、「さくら13本」という数字がある。4年前の資料でその後の増減が明らかでないが、わずか13本では「桜丘町」の名を返上した方がいいのでは、などと思いたくなってしまう。


 世田谷吉良氏繁栄のあと・・・

  桜・桜新町・桜丘  (東京都世田谷区)

 桜、桜丘は昭和41年に、桜新町は昭和43年に生まれた町名である。世田谷区中央部に位置するこれらの町名が、その昔繁栄を極めた世田谷吉良氏にまつわるものであることは、あまり知られていないようである。

 世田谷吉良氏は、室町時代に初代治部大輔治家(はるいえ)が上野国飽間(こうずけのくにあきま)(現群馬県安中市)から世田谷郷に入部した時に始まる。この時治家が築いたものが、現在城址公園となって残されている世田谷城である。

 その後6代目吉良頼康の代に、世田谷吉良氏は全盛を極めた。この頃、世田谷城は、その本丸にあった桜にちなんで「桜御所」とも呼ばれるほどであった。この 「桜御所」という名が、のちに「桜」という地名を生み出したのである。


 世田谷城は、世田谷吉良氏が栄えるとともに発展したが、天正18年(1590年)豊臣秀吉の手で小田原北条氏が滅亡すると、その運命を共にして廃城となった。現在では、城址公園の名にかつての栄光を残すのみとなっている。


 旧中原街道の面影を残す・・・

  桜坂  (東京都大田区)

 目蒲線沼部駅から北東に上る、両側に桜の木が並ぶ坂・・・ それが桜坂である。この桜は、昭和になってから多摩川堤愛桜会の手によって植えられたもので、「桜坂」という名もこの桜にちなむものであることは、言うまでもない。

 この桜坂、もとは中原街道であった。江戸時代には、坂下に茶屋も置かれ、旅人や商人の往来で賑わっていたという。しかし、今の中原街道ができると、この旧街道の坂は急速にさびれてしまった。そこで、多摩川堤愛桜会の方々が、この坂に桜を植え、桜坂と名づけて往年の賑わいを呼び戻そうとしたのであろう。

 「桜」のつく地名の中では、その起こりとなった桜の木が比較的新しいため、今でも数多く桜を見ることができる。名と姿の一致した、貴重な存在の地名である。



福山雅治の歌「桜坂」は、ここ桜坂

平成21年4月撮影:岩田忠利
 

  鉄道発祥以来の歴史・

  桜木町・花咲町  (横浜市中区・西区)

  東横線の終点である桜木町駅は、日本の鉄道発祥の地であることで知られているが、町名としての桜木町、花咲町も鉄道開通と同じ明治5年(1872)生まれたものである。

 桜木町の名は、この地が桜木川に沿っていたために名づけられた。また花咲町は、桜木川と桜木町にちなんで佳名により町名としたという。

 ところで、この桜木町と花咲町、小さな町であるにもかかわらず西区と中区の二つの区に分かれている。.このような例は、横浜市にはほかに赤門町(西区、中区)、川島町(保土ヶ谷区、旭区)がある。区制施行や新区誕生の際に生じたものであろうが、すっきりした形にできないものだろうか。

 「桜」ではなく、今はビルの建ち並ぶ桜木町、花咲町。町名の起こりとなった桜木川も、その後埋めたてられ、現在は大型トレーラーの行き交う国道16号線となった。美しい名が夢のような土地となってしまっている。
                      ◇◆◇
 今年もまた、沿線各地で桜の花が春を彩るであろう。「花見」と称して酒飲みも結構だが、春の一日、かつての桜の姿を思いうかべながら、「桜」の名を持つ町を歩いてみるのも、またおもしろいのではないだろうか。

<参考文献
 『角川日本地名大辞典 13東京都』 
『横浜の町名』 『新修世田谷区史』
 『世田谷区史跡散歩』 『西区の今昔』 『今昔東京の坂』

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