NO.41 2014.5.10 掲載

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     歴史ある建物を残すエネルギー


 まず建物の調査観察と評価

 古い建物を残す手始めとして、我々にはその建物の価値が判らなければなりません。それには、その時代の背景やその地域の歴史、建築史も建築技術史も知らねばなりません。

 調査や観察して建物の評価をきちんとし、我々が素晴らしさを理解してから所有者へ説明しなければなりません。昔の建物はそれぞれ個性や特性を有し、同じ造りの建物は決してありませんので、丹念に調査観察します。


  次に所有者との話し合い

 多くの建物所有者はご高齢者が多く、古さと汚さや不便さで恥ずかしいという思いをお持ちですから、建物とそこでの生活に誇りを持っていただけるようにお話します。でも、これが第一義ではありません。

 肝心なのは、所有者の方と話し合い、『所有者も建物もより幸せになるために』、どのような考え方や方法が可能か、経済的負担を鑑み、あらゆる手段を模索します。両者ともに大変なエネルギーと時間が必要になります。本業の合間に可能な限りの時間を当ててでも、このエネルギーを惜しんでいては残りません。

 


昭和8年築、磯子区K邸

我々が保全改修しました







昭和8年築、港北区N邸 横浜市認定歴史建造物

 2階建て郊外洋風住宅。私が保全改修工事しましたが、今後末永く公的に残すべく方法を模索検討中です



大正15年築。RC造り日本基督教団鎌倉教会聖堂

 耐震性と老朽化の問題を抱え、今後の補修や改築に備えて現況実測調査、現況図面作成をした特異な例です


      昭和12年築、鵠沼H邸

 著名な美学・哲学・思想学者が建てた英国古民家風住宅。我々が調査し文化財登録申請しました。解体古民家2棟分の古材を転用し建築されました








  伝統的建築工法の現状

 ちなみに、特に木造住宅は昭和30年代後期より徐々に、建築工法の変化や各職種の電動工具の普及、工場生産建設材料の広汎な使用、職人不足、技量不足など大きく変化してきて、効率化が優先し、伝統工法的要素が薄れだしました。
 さらに、耐震基準や防火基準が強化されて、行政の過去の伝統工法に対する認識不足の影響もあって、古き良き伝統的工法が廃れてきています。




           歴史的建造物の保全活動


 我々のグループ活動

 
このような「築50年以上の建物を歴史的建造物」と総称されています。

 洋館付き住宅や文化住宅から農家や民家、洋館など古い興味深い建物を中心に歴史的建造物の保全活用に携わっています。
 私が参加している、建築史上特異な洋館付き住宅の名を冠したマイナーな有志グループが
<よこはま洋館付き住宅を考える会>(略称YYJK  http://yyjk.jpn.com/です。同時にさらに活動の場を広げ、広く連携するため<神奈川県建築士会スクランブル調査隊>にも属しています。

 歴史的建造物の調査やその報告書の作成、有形文化財への登録申請、保全改修や保全活用の支援や協力、日ごろの研鑚など実業とは若干視点の異なる活動をしています。
 ※文中「我々」とあるのは上記二つ、いずれかの所属するメンバーを含みます。

 そして、長年横浜市内の主要各区の歴史的建造物を我々が独自に調査特定して、データベース化しており、その後の安否もチェックしています。

 また、我々の行った調査活動は横浜外国人居留地遺跡、軍事遺構、産業遺構、出土した埋没遺構、公営施設、複合ビル、教会、社寺、農家、商家、蔵、納屋、洋館、一般の住宅に至るさまざまな遺構や古い建物の多岐にわたる調査をしてきました。一方、止むを得ず解体される建物の解体前「記録保存」調査を行ったことも、たびたびあります。悲しいのは原因不明の火災焼損による建物調査では、まさに灰塵に帰した状態を調査することになります。



焼失した大磯旧吉田茂邸

現在再建をめざしています




 個人的に見学した歴史ある建物は数知れず、県内外から地方まで、時には海外まで出かけます。

 また、下の2枚の写真は、日本ではほとんど紹介されていないイタリアで探したイタリアン・アール・ヌーヴォー=リベルテイの住宅です。アール・ヌーヴォー様式建築はわずか十数年の儚い間の世紀末建築といわれ、ヨーロッパ各国によって呼称やスタイルがかなり異なります。



1912年築


1911年築


 県主催の歴史的建造物保全活用推進員養成講座

 昨年は港北区政推進課が街づくりの一環として、港北区内にある歴史的建造物の所有者に協力いただいて、見学会及び街歩きツアー「港北オープンヘリテイジ」の見学建物のガイド協力なども行いました。そして、現在このような催しを他の区にも広げる計画を仕掛けています。

また、今年4期目を終えた神奈川県主催の歴史的建造物保全活用推進員(ヘリテイジマネイジャー)養成講座(全講座60時間、13日間、120名)に於いて、そうそうたる専門講師陣の末席で講師役や講座運営の実質協力もしています。

嬉しいことに、行政や民間共に少しずつではありますが、いろいろなジャンルの人々の関心が歴史的建造物に向き、広がってきています。

 どうぞ、当ホームページをご覧の皆様も歴史ある建物をまず愛でてください。それなりの味わいがあります。

 また、歴史ある建物の保存や保全活用のご相談、ご協力など必要あればご一報ください。



アール・ヌーヴォー風外観、鎌倉の珍しい洋館付き住宅

 昭和初期の築です

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樹木  歴史ある建物に寄り添って(4)
文・写真:越智英夫建築家 横浜市神奈川区神大寺在住)